我が子
ルーナがイルムの子供を出産した。
母子ともに健康。産後も大きな問題はなし。
また、今度はネリーの懐妊が分かった。
ネリーは妊娠3ヶ月目であり、出産は半年以上先になる。
夫婦が家にこもりきりだと子供ができる、というのはよく聞く話である。
大体の農村は冬などに子供を作るというが、それは冬がやることの少ない季節だからだ。
春から秋にかけては山野に出て山菜や焚き木などを集めるし、畑の世話がある。とても忙しい。
それが冬になると、焚き木はともかく山菜は期待できず、畑も休耕地にしていることが多い。できることが少ないのだ。だから冬は子作りに励むのである。
人間、どこでもやることは変わらない。
「名前は考えてくれた?」
「男の子だからな。ここは先人にあやかって、『ムスカ』というのはどうだろうか?」
「サーベリオン領の、少々昔の騎士団長の名前ね。いいと思うわ」
子供ができたのだから名前を付ける。
事前にいくつか候補を考えていたイルムは、公都でもよくある名前、有名人の名前を贈ることにした。
このムスカという騎士団長はすでに亡くなっているが、いくつもの戦役で武勲を挙げ、それでも60まで現役を務め天寿を全うした男である。
縁起の良さから同じ名前を付けられた子供が多いことを除けばいい名前である。イルムの前世知識にあるどこかの大佐は関係ない。
なお、女の子の場合は『ユナ』という名前を用意していた。
こちらはあまり有名ではなかったが、サーベリオン領で活躍した女性外交官僚の名前である。
今回、イルムはサーベリオン領の人間として、子供の名前をこの地にゆかりのあるものにしようと考えた。
土地の人間がよくやることを踏襲することで周囲に馴染もうという腹積もりだ。
それは小さな努力であるが、何もしないよりはずっといい。
イルムは指を使って生まれたばかりの子をあやす。
壊れ物を触るよりもずっと気を使い、見るものすべてが珍しいといった赤ん坊の気を引く。
自身の子はとても可愛いらしく、イルムの顔に笑みが浮かぶ。
「名に恥じぬ男になれとは言わないが。ただ、健やかに成長してほしいものだな」
イルムの指を追いかけるムスカを見て、母となったルーナは微笑む。
「なら、守らないと」
「ああ、そうだな」
イルムとルーナは人の親となった。
男は女に比べて親になった自覚が薄いとも言われるが、それはイルムに当てはまらない。
イルムも、自分が父親になったのだと強く自覚する。
「そう言えば、これでネリーやウノも『おばさん』になったわけか」
「それ、本人には言っちゃだめだよ」
もっとも、親としての自覚と普段の態度にはあまり関係がなかったようであるが。
親しさ気安さゆえの失言で、イルムがひどい目に合うのは、また少し先の話。




