プロローグ:男二人
「結局、アブーハ公爵とミルグランデ公爵のどっちに就くんだろうな。うちの大将は」
「まぁ、普通に考えたらアブーハ公爵なんだろうけど、その場合はミルグランデ公爵が消えてサーベリオン公爵との二強状態になるし。いや、アブーハ公爵一強状態か。
ここは勢力バランスを取るためにミルグランデ公爵と協力関係を結ぶのが正解だろう」
「そうか? 組む相手をコロコロ変えるのって、格好悪いだろう? 貴族的にそれってどうよ?」
「アブーハ公爵の領土的野心を抑え込むことが出来るならそれでいいんだけどな。そもそも、サーベリオン公爵は非戦派だから」
イルムとクリフは、互いに時間があったので雑談をしていた。
イルムは魔法訓練関連の仕事をしないようにと言われている。出来るだけではあったが魔法も使えない。
魔法関連の方法はまだ秘匿しておきたいという事で、休むしかなかった。
クリフの方は、たまの休日だ。
クリフの仕事は聖女であるウノの護衛。普段であれば外に出て回復魔法を使うウノを守るのだが、その日は魔力回復に中てるという事でウノが外に出ない。
そうなるとクリフも仕事を休んでいいという事になり、運良く訪れたイルムと駄弁っているわけだ。
「しかし、久しぶりに顔を合わせたっていうのに、仕事の話ばかりだな」
「昔話はしても面白く無いからしょうがないだろう? 女の話題は鬼門だしな」
「違いない」
二人が話題にあげているのは、サーベリオン公爵に持ち込まれた二つの停戦交渉だ。
ミルグランデ公爵は3年の停戦を申し込み、アブーハ公爵はそれを受けないようにとお願いしている。
この交渉次第では、国が大きく動きかねない。
歴史の転換点という事で二人も注目している。
サーベリオン公爵は国がいつまでも内乱を続けることに憂慮している。
アブーハ公爵とミルグランデ公爵は雌雄を決したい。
お飾りで傀儡の国王はどうでもいいとして、今はこの三公爵の決定が国を動かしている。
その、今後の動向を決定づける交渉が行われているとなれば、二人が注目するのもしょうがないだろう。
いや。
二人が仕事の話題ばかりをしているのは、現実逃避でもある。
二人の生まれた村は教われて滅び、もう無い。
だから口にすれば、思い出そうとすれば心に痛みを伴う。
無意識にではなく意識して、二人は昔話を話題から避けていた。
「ま、俺たちの意見は聞かれてもいないからな。なるようになるか」
「そうだな。だから今はこうやって酒でも飲んでいればいい」
この雑談では、特に建設的な話や意義のある時間を求めていない。
軽い気持ちで、時間を潰すようにとりとめもない、そんな会話を続けている。
「それにしても。イルムには先を越されたな」
「何がだ?」
「子供だよ、子供。まずはルーナの方だったか。もうすぐなんだろう?」
「そうだな。あとひと月かそこらで予定日だ」
「男と女、どっちだろうなぁ。いや、どっちでもいいんだろうけど」
「そうだな。無事に生まれてくれればそれでいい」
男二人、盃を片手に酌み交わす。
安い酒であったが、味はそこまで悪くない。
二人の時間は夜遅くまで続いた。




