幕間:慈善事業
イルムは、傭兵になってしばらくしてから孤児を育てることに挑戦していた。
孤児を育て、いずれは部下にしようと思ったからだ。
が、その目論見はあえなく潰える。
孤児との間に信頼関係を築けず、貰うものだけ貰っていった孤児が逃げて行ったからだ。
イルムが傭兵仕事から帰った後に孤児院で見たのは、従業員として雇った世話役だけが残り、孤児たちは全員いなくなったというオチである。
イルムはその失敗を理由に、孤児を助けようとは思わなくなった。
将来の戦力補充という見返りを求めての行為であったため、労力に対し見返りが見込めないのだからしょうがない。
イルムがしたかったのは、慈善事業ではないのだ。
ただ。
慈善事業がしたい人間にしてみれば、孤児院運営というのは「やっても良いこと」であった。
まだ瓦礫の残る公都の被災地。
そこでルーナとネリーが炊き出しをしていた。
「並んでくださーい!」
「並ばない人にはあげませんよー!」
もちろんそれをしているのは二人だけではない。
協力者を募り、20人以上が「慈善事業」の為に動き回っていた。
料理を作る者、配膳する者、列を整理する者、物資の近くで不埒者に警戒する者。
やるべきことは多くある。ただ料理作り渡すだけでは済まないのだ。
被災地での炊き出しは危険も多く、二人だけで出来るような事ではないのだ。
「姉さん、材料がもうすぐなくなるって」
「分かったわ、ネリー。今、列に並んでいる人で終わりって連絡して」
炊き出しの中核を担う二人は、周囲と連携しながら順調に配膳を行っていく。
二人が配膳を行っている理由は、渡すときにごねる者やずるい者がいるからだ。「もっとよこせ」と言いだす者、何度も並ぶ者などだ。終わりがけには「俺はまだ貰っていないぞ」と言って暴れる者すらいる。
だが、この二人であればそういった連中を排除することが可能になる。
イルムほどではないが、ルーナとネリーはそれなりに強く、騎士ともいい勝負ができる程度に戦えるのだ。
二人は師匠がいいし、盗賊退治で経験豊富という訳だ。
炊き出しが終わり、片付けをしている二人の所に、イルムとジャンがやって来た。
「お疲れ様」
「お疲れー」
「「イルム!」」
「俺は無視かよ……」
イルムに反応し、二人は笑顔を見せる。
取り残されたジャンはやや不満そうであるが、旦那とその他で扱いが違うのは当たり前だとすぐに不満を抑え込む。
「それにしても。なんでこんな事をしているんだ?」
ジャンは二人が慈善事業をしていることに驚き、その理由を尋ねた。
イルムが孤児院で失敗したことは聞いていたので、嫁である彼女たちが慈善事業に手を出す理由が分からなかったのだ。
「余裕があるから」
「助けられるから」
「「当たり前の事でしょう?」」
聞かれたルーナとネリーは不思議そうな顔でジャンを見る。
二人にしてみれば、公都にとっていい影響があるはずの慈善事業に疑問を持つことが不思議だったからだ。
それに、人道を説くなら富裕層が炊き出しなどで被災者を救済することは善行である。
やはり、やる事に疑問を持たれる謂れは無い。
「いや、孤児院で失敗したんだろ? もうそういった事には手を出さないのかと思って、さ」
「あれは戦力補充が目的。慈善事業じゃないよ?」
「信頼関係は一朝一夕では築けないよ? 積み重ねるのが大事なの」
「「やる理由はあってもやらない理由は無いよね?」」
ルーナとネリーは、自分たちに余裕があるからやっていると付け加える。
助けるというのは、助けた側が駄目になっては意味が無い。力のない人間は「手に余るようであれば助けてはいけない」となる。
逆に言えば、「余力だけで人助けができるなら助けてもいい」のだ。
いや、全力であっても自身がしっかりと立っていられるのなら助けてもいいのだが。
身を削って人助けをするのは自己満足でしかないという話だ。
二人はしっかりした考えをもとに慈善事業をしている。
それならばと、ジャンは口を噤む。
納得はしていないが、そこまでうるさく口を挟む事ではなかったので、それ以上、追及することを避ける。
「ま、身重なんだからあんまり無理するなよ」
ジャンは大きくなりつつあるルーナのお腹を見て、それだけ忠告していった。




