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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
1章 英雄の翼が折られる時(王国歴139~142年)
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大人と子供

 小競り合いはあったが特に大きな出来事もなく、王国歴は142年を迎える。



 イルムは15歳の誕生日を迎えてからずっと張り詰めていた。

 周辺の人の行き来に過敏になり、わざわざ余所の村まで行って話を聞きに行くこともあったほどだ。


 そろそろ始まるであろうゲームの本編、「アブーハ公爵家(余所)の騎士に村を襲われ、村を焼かれ妹を連れ去られる」イベントを警戒しているのだ。



 周りの大人達は「もう成人したのだから」と、そんなイルムを白い目で見て――はいなかった。


 ここ最近、兵士崩れの盗賊が何度も村にやってきたからだ。

 さらに、そのように治安が大幅に悪化したというのに大増税と、いろんな所で支出が嵩んでいるため、イルムが出歩いてもその分収入が増えさえすれば気にしなくなったのだ。

 イルムは出歩いた時に物々交換をしているので、表だって文句を言う理由がないのだ。


 林業の村だったから税がほぼ木材だけであった事と森の恵みで飢えはしなかったが、物価の上昇により村は貧しくなっていた。

 そのため狩りが上手く、強いので余所へと行っても無事に戻ってこれるイルムを大人達は重宝するようになる。



 ただ、これまでイルムと距離を置いていたことで、大人達のイルムへの対応は拙い事が多い。特に村長が駄目だった。

 それまで「どうしようもない子供」と扱っていた手前、そんなイルムを今更一人前と認めるにはプライドが邪魔をして、どうにも高圧的な態度を取ってしまう。


「チッ、これっぽちしか手に入らなかったのか? これでは交換しなかった方がマシではないか」

他の村(あちらさん)も厳しいんだ。無理を言っても出せん物は出せないさ」

「これだからよそ者は役に立たんと言うのだ。住まわせてやっている恩を理解する頭と感じるだけの心があるならもっと働け」

「はいはい」


 イルムが他の村との交易をしてきた帰りである。

 余所の村、穀物の生産を中心にしている村では肉類が不足しやすいので、肉との物々交換で大豆と小麦を中心に調達してきたところであった。

 そのままクリフ(肉屋)の所へ行き結果を報告してイルムの仕事は終了であったのだが、そこでイルムは運悪く村長に捕まった。


 肉と穀物の交換レートはクリフや他の村が折衝をしているのでイルムの権限の外である。

 一つ一つ品質の違う生ものだけに、言われているレートで交換してくるだけの簡単な仕事ではないが、それでもイルムが非難される謂われはない。

 だがそんなことはお構いなしに村長はツバを飛ばしイルムに説教をする。


 対するイルムの反応の方がよほど大人である。

 特に声を荒げることもなく、飄々(ひょうひょう)とした態度で村長の言葉を聞き流す。言い返すだけ無駄、ただ人に怒鳴り散らしたいだけの人間に理を説くことの無意味さを知っているのだ。

 感情任せで無様な村長に怒ることもなく冷静だ。

 もっとも、村長に敬意を払わず、どこか馬鹿にした態度でもあったが。





 イルムと周囲の関係は二極化する。


 大人達は、イルムの能力を認めつつも信用しない。村のトップが御し切れていないからだ。

 大人達は能力よりも秩序、従順な子供をこそ高く評価するから、村長に嫌われたままでいるイルムへの評価は低い。

 巻き添えを避けるためにイルムのことを半ば放置し、それよりも周囲への悪影響を考慮して幼い子供達には近付かないように言い含める。


 子供達の中でイルムは人気者だ。子供は目の前の結果を重要視し、強くて狩猟の上手いイルムに憧憬の目を向ける。大人の言うことを聞かないというのも、実はポイントが高い。

 子供達は得られる利益(お金とお肉)だけを見て、自由に振る舞いながらも村に貢献しているとイルムを高く評価した。

 イルムから直接利益を引き出そうとするより、その方法を知ろうと関係を持った。憧れから舎弟のような立場になる者もいる。単純に、仲の良い者もいる。



 これはどちらが間違っているという話ではなく、基準が一つに限らないという話。

 どちらも(彼らの基準で)正しくイルムを評価し、その様に扱っている。


 村のために。

 ただ、村のためにと言っても村の秩序と村人の生活など様々な要素があり。


 その比重が、見ている視点の高さが違っただけである。

 その基準が、正しいか測る術が無かっただけである。

 その意図に、等しくイルムの意思が反映されていないだけである。


 そんな中で、「運命の日」は訪れる。

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