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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
5章 魔法使いの弟子たち(王国歴149~152年)
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冤罪(偽)

 魔術師長がイルムを犯人のごとく扱う理由は簡単だ。

 公爵の手の者がイルムを人々の前で悪く言い、それによってイルムが「反公爵」の旗頭になることを期待しているのである。


 今回の事件でサーベリオン公爵領は混乱する。

 大規模災害が起き、多数の死傷者が出たので当然だ。

 問題は、その混乱に乗じて暗躍する者が出ることだ。



 通常、何か悪事をしようというときに自分の部下をそのまま使う者はいない。

 バレたときに自分が捕まってしまうからだ。

 だから悪人、公爵にとって邪魔な者は、外部の切り捨てやすく自分とあまり関わりの無い人間を使う。


 今回、イルムは人々の前で犯人扱いされた。

 単純に考えれば「公爵はイルムを信用してない」「公爵はイルムを重要視していない」、そして「こういった事が出来る力があるかもしれない」と思われる。

 つまり、悪人にとって使いやすい人材と思われる。



 もちろん頭の多少回る者は引っ掛からない。単純な馬鹿だけが騙されるだろう。

 しかし、その程度で良いのだ。馬鹿がいなくなるだけで公爵たちはやり易くなる。

 それらが頭の回る者の駒にならなくなるだけで行動を縛れるし、見せしめ、牽制になる。


 イルムは活き餌のごとく、公爵を軽んじている者を集めるだろう。



 この話を引き受けたイルムの思惑、公爵から提示された報酬は、今後イルムが魔法使い育成で稼ぐ予定だった金銭の事前支払いだ。

 前金で一括払いをするから、しばらく任を解き、立場を悪くさせるのを我慢してくれと頼まれた。


 一見するとあまり嬉しくない話のように見えるが、これは公爵よりもイルムにメリットのある提案だ。

評判が落ちれば結婚を申し込まれることもあまりなくなる。苦しいときに助けようとする奇特な者も、公爵に睨まれてまでは助けられない、はずである。

 また、今のイルムが婚姻状態にあるいくつかの家は、イルムとの離縁を言い出すかもしれない。多すぎる妻を減らす、良い機会だ。


 イルムが名声に拘る人間であれば使えない手であるが、全く気にしないので、デメリットは小さい。



「で、あるからして! イルムの背任を追求するものである!!」


 魔術師長の、演説が終わる。

 なかなかの迫力であり、そこそこの説得力があったが、ただそれだけで証拠などは全く提示されなかった。

 聞いていた者たちも、公爵が証拠無しにイルムに罪を着せ一方的に処罰をし、とりあえず民衆に「犯人は捕まえたからもう大丈夫」と言いたいだけなのだと理解した。裏の意味はともかく、表はそういう話にするのだろうと。


 こうしてイルムは犯罪者扱いされた。


 ただし、本当に犯人にすると目論見が崩れるので、そのあと無罪が確定するのだが。    

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