糾弾(偽)
公都の一画が焼き払われるという大事件から3日後。
イルムは公爵やその側近が集まる会議へ出席するように求められた。
事件後すぐでないのは、事件の応対で忙しかったからである。
「この未曽有の災害で忙しい中、みんな、よく集まってくれた」
初めて顔を合わせる公爵は、40をいくつか過ぎた細身の男だった。
疲れ切っているだろうに、顔色からはそれが窺えない。普段は温厚と呼ばれるその顔に苦難に挑もうとする真剣さをたたえて、周囲を見渡した。
視線が向けられた者は背筋を伸ばし、公爵の言葉に耳を傾ける。
簡単な挨拶から入り、みんなでこの苦境を乗り越えようという言葉を貴族らしい装飾をして語った。
そして具体的な解決策を模索するべく、話を進める。
「まずは、『なぜこのような事件が起きたのか』だ。
魔術師長、説明を」
「はい」
公爵に命じられ、初老の男が立ち上がる。
彼はサーベリオン領の魔法使いを管理している者の頂点。魔術師長の役に就いている者だ。
ただし魔法の腕前だけで言えば、イルム未満どころか高弟たちにも勝てないだろう。
魔術師長は魔法使いに対する理解度・対応力で任せられた地位であり、魔法の腕前で就いたわけではないというのがその理由だ。
必要なのは管理者としての能力であり、魔法の腕前は関係ないのである。
「今回の事件ですが。伝説の魔法、≪フレア≫が使われたのではないかと考えております。
大規模火災が起きたのは皆さんご存知の通り。そこに魔法の痕跡がある事までは突き止めました。ならば炎の魔法でしょう。何者かが魔法であのような事件を起こしたのです」
魔術師長はイルムのいる方へと視線を動かした。
他の者の視線が釣られるという事は無かったが、何が言いたいのか、イルムは察する。
だが、イルムは平然としている。
自分がやったわけではないのは他ならぬ自分の事だ。知っているし、周囲にそれを証言する証人もいた。
少なくとも、イルムが何か悪事をしたという訳ではない、ではなく。
「文献にある≪フレア≫は大魔法です。個人でできる規模ではありません。いえ――個人で出来ないでいて欲しいだけかもしれませんね。
ならば何者があのような魔法を使ったのか? その疑問に対する答え、一人しか思いつかないのですよ。多くの魔法使いに動員を書けられる者など、一人しかいないのですから。
そうでしょう? みなさん」
魔術師長はイルムを犯人と見做していた。
魔術師長とは比べ物にならない魔法使いであるイルムを嫉妬しての行動。周囲への呼びかけを行い、イルムを追い詰めようとする――フリをした。
イルムが冷静なのは、事前にこの流れを聞いていたからだ。
八百長、出来レース。
裏取引で公爵側の人間から、「一時的に糾弾される側に回ってほしい」とお願いされていただけなのである。




