魔法ギルドの結末
高弟たちが弟子の面倒を見るシステム。
それによりイルムの手がかなり空いてしまったが、それでも仕事が全くないわけではない。
相談事をされるというのもあるのだが、一番の仕事は、高弟たちの指導範囲を広げることだろう。
高弟たちは確かに卒業生となり弟子という枠組みから一歩抜け出したが、それでも魔法関連でイルムに勝てるはずがない。年季が違うというのもあるが、何よりもイルムのすべてを教えきったわけではないからだ。
彼らもまだ、魔法を探求する学徒のままなのであった。
「師匠、最上位の魔法について教えてください」
「その前に上級魔法を究めるように」
高弟の一人、ミュロンは炎・氷・雷の3属性中2属性、炎・氷の上級魔法を使える。
そして彼は自身の得意とする魔法の、さらに上があることを知っている。強い向上心を持つ彼であるから、最上位の魔法に興味を持つのは当然だった。
しかし雷はまだだし、回復・補助に関してはまだまだである。とても基礎ができているとは言い難い。
それに使えるというだけで、使いこなしているとは言い難い。魔法に変化をつける≪アレンジ≫もまだまだだ。
だからイルムは使いこなせるように努力し、他の魔法も覚えるようにと突き放した。
ミュロンもそれを指摘されると強く出づらく、おとなしく引く。
ただ、イルムに答えにくい質問を重ねる。
「一つお聞きしたいのですが」
「何かな?」
「師匠は、どうやってそこまでの魔法を究めたのですか?」
「基礎的な情報はある程度親から教わっていたけどね。あとは実践のみ、だよ。使っていれば、自ずと道が見えてくる」
とうとう聞かれたか、と内心で苦く思いつつも、イルムは表面上は平静を装い無難な答えを返す。
イルムの知識は前世知識と呼ばれるものが源泉になる。
当たり前だが、そんな真実を教えるわけにもいかず、事前に考えておいたカバーストーリーで答えを濁した。
事前に考えておいたとはいえ、カバーストーリーは非常に雑だ。
実践だけで魔法の探求ができるなど普通にありえず、ある程度の指針がなければ本当の意味で究めることはできない。多少は自身の才覚で道を切り開くこともできるだろうが、それでも限度がある。
親から指針となる情報を得ていたとは言うが、それでも見本となる誰かがいなければ“未知”へと進むことができないだろう。
イルムの答えを聞いたミュロンも、「ああ、まともに答える気はないのだな」と微妙な表情をした。
しかし、答えを口にしないのも、自分には教えられないことなのだろうと事情を察して口をつぐむ理性が彼にはあった。
イルムもそれに気が付くが、あえてそれを無視して話を進めた。
「名前と効果を想像して、どうすればそういう事ができるのか理論を考えるんだ。そのためには基本となる魔法をしっかり理解するのが大切だよ。
同じランクの魔法から共通点を抜き出す。下級中級上級と、何が変わっているのかを把握する。あとは何か自分なりに変化を与え、なにが変わるかを調べる。
同じ魔法でもイメージやアレンジ次第でできることが大きく変わるし、そういった変化でできた魔法を新しい一つの軸に据えると面白いね。
一朝一夕ではできないことだけど、挑めば分かることもあるさ」
「なるほど……」
今度の答えには何か思うところがあったらしく、ミュロンはイルムから視線を外し、思案し始める。
イルムはさらりと魔法解析の基本的な考えを口にするが、こういった方法論は外に流れておらず、実はほとんどの魔法使いがそんなことを考えない。
イルムの中ではよくある「魔法の研究を行い現行の魔法を改善・改良する」といった事は、他ではあまり行われていないのだ。
知識の共有や伝承が上手く行われていない世界なので、この考え方だけでも門外不出の秘伝扱いされる。
ミュロンはイルムの答えに納得し、満足すると、お礼を言って帰って行った。
そして、イルムはここでこの考え方についてミュロンに語ったことを、死ぬほど後悔する事になる。
イルムの言葉を刻み込んだミュロンは、言われた通り基礎の固め直しを行うようになるのだが、その傍らで自分なりの魔法研究を行うようになる。
新弟子を巻き込みつつ行う新魔法の研究は、イルムの手を離れたところで、公爵の協力を得つつ、イルムの名前で、密やかに。
常識の中に倫理規定などがないことで暴走する魔法研究の行く末は、相応の結末へと歩みだした。
イルムは高弟と弟子たちの様子を見ては時々口を挟み、後進の育英を行う。
下の者はその教えを守り、徐々に成長していく。
弟子は成長するに従い、弟弟子たちを育てる流れができていった。
一度サイクルができればそれは慣習や制度といった言葉で明確化された。
三公爵の間で大規模な軍事行動が行われることなく一年が過ぎ、魔法ギルドは戦争を知らぬ間に形だけはできた。
大規模な軍事行動が行われなかったことで日の目を見ることが無かったのが幸いに転じ、他からの干渉もない。
ただ。
そんな中で。
王国中にその名が広がるほどの、大事件が起きてしまう。
後の世まで語られる『フレア・ロスト事件』。
数千人もの死傷者を出し、サーベリオン領の公都の一画を消し飛ばした、外壁ごと焼失させた、魔法暴走事件である。




