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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
4章 聖女と守護騎士(王国歴148年)
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幕間:公爵たちの現状

 王国歴148年、年末。

 アブーハ公爵側の重鎮たちは、快進撃を続ける自軍に満足していた。



「バーラ伯爵領も落ちましたな! これで落した伯爵領は2つ目。そろそろ停戦交渉を視野に入れてもいいでしょう」

「ですな。これ以上は進まない方が良いでしょう」

「では、停戦交渉でさらに金をむしり取らないといけませんなぁ」

「ええ。反撃する力を奪わねばなりませんからね」


 3日に1回行われる戦地からの報告は、序盤こそ苦労したものの、今では「戦えば勝つ」と言っていいほどであった。

 アブーハ公爵軍は最前線の伯爵領ひとつと、そこに隣接する伯爵領を陥落させ、男爵領・子爵領もいくつか支配下に置いている。

 結果を聞いた重鎮たちの笑いが止まらない戦果を得ていたのである。



 こうやって勝ち続けると、そのままミルグランデ領全域を制覇してしまえという愚かな者が出てきそうなものであるが、アブーハ公爵の元にいる重鎮に、そのような事を言う者はいなかった。


 勝ち続けているというのは、一見するといい事の様に見える。

 しかし、戦線が前に出過ぎれば占拠した土地で反乱がおき、補給が出来なくなって軍が瓦解するといった事態に落ち入りかねない。

 それに、戦っている兵士たちの疲労が連戦により限界を超え、思わぬ大敗を喫することもある。


 そういった観点から、一度軍を引き交代させ、占拠した土地で慰撫を行い住民を手懐けるなどの統治政策が必要になる。

 引き際を誤ると、反抗勢力と言われかねない内部の敵を大量に作り、無法地帯が出来上がってしまうのだ。そうなれば勝って得たはずの土地は負担にしかならず、勝たない方が良かったと言われかねない。



 重鎮たちの話を聞いていたアブーハ公爵も、兵を交代させ停戦を行う事に前向きだ。

 追い詰めすぎると何かとんでもない事をされるかもしれないし、今は協力関係にあるサーベリオン公爵を警戒させてしまう。


 このタイミングでサーベリオン公爵と戦う事は致命的な敗北を引き起こしかねず、これまでの勝利が無駄になりかねない。

 だから新しく得た土地が安定するまではサーベリオン公爵との協調路線を維持し、ミルグランデ包囲網を維持するのが最善であろう。


 アブーハ公爵はサーベリオン公爵側がどの程度ミルグランデ領を切り取ったかはまだはっきりしていない。

 ただしダーレン伯爵領とその周辺を手に入れて最低限の面目を保てるところまで軍を進めたと話を聞いている。

 軍を止めるかどうかは微妙な状況であるが、アブーハ公爵から見たサーベリオン公爵は、穏健派の協調路線の人である。停戦を提案することに難色を示すとは思っていなかった。


 もしもの話であるが、サーベリオン公爵が停戦に合意せずとも自分たちだけで停戦協定を結べばいい、そう結論を出した。





 ところ変わって、ミルグランデ公爵側。


 ミルグランデ公爵は追い詰められていた。

 側近たちもどうすればいいのかと頭を抱え、国境の貴族たちは防衛網構築のため代理人すらこの場に残さなかった。

 良い考えなど誰にも浮かばず、公爵は集団の長としての矜持で胸を張っているが、内心では何でもいいのでとにかく叫びたくなっている。


 打った手は裏目に出てしまい、自分を追い詰める方に状況が流れていく。

 軽い嫌がらせが大ごとになるわ、余計な出費がかさむわ、逆侵攻をかけられるわ。

 たった一本の流れ矢から始まった戦争は、ミルグランデ公爵の精神を確実に削っていた。



「閣下。バーラ伯爵領が落ちました。

 防衛にあたっていた第三騎士団は半壊。現在再編を急いでいますが、まともに稼働する騎士団は第一・第二の二個までです。

 戦死者が大量に出た事もあり農村部では深刻な男性不足に陥っているという話と、その」

「なんだね? 報告ははっきりと言いなさい」

「ダーレン周辺で、我々の把握していない臨時の戦時徴収があったという噂が流れています。

 サーベリオン公爵に寝返った農村は、閣下の名で行われたその戦時徴収で根こそぎ食料を奪われたことを理由に、反旗を翻したそうです。

 事実関係は確認中ですが、ほぼ、間違いないと思われます」

「その馬鹿の首を刎ねろ!!」


 聞きたくもない部下の報告に、ミルグランデ公爵は思わず怒りの声を上げた。

 周囲の側近たちもそれに同調し、厳罰に処すべきだと追従した。


 税に関する権利は現地の貴族に大枠では一任されている。

 しかし実際問題として、現場に任せ何も制御しないようでは大貴族が上に立つ意味が無い。だから王国や大貴族は自分の下にのみ通用する法律を施行しており、貴族はその枠内で自由に動ける、という形をとっていた。

 その中には、税の上限や、手を付けてはいけない種籾の量などについての記載もある。


 戦時であろうと、種籾まで奪えば次の収穫が無くなるのは困る。ただでさえ戦時は農地が荒れたり人が取られて収穫量が落ちるのだ。種籾に手を出すというのは、国を殺すような手段なのだ。

 人も国も死なせないための措置であったのだが……愚か者が、その法を違えたのである。しかも公爵の名前まで使って。

 ミルグランデ公爵が激昂するのも仕方がない。



「他に同じことをしている者がいないとも限らん! 各地に人を送り、状況を調べさせろ!

 大人しく従うなら下手人のみ、逆らうようであれば一族郎党共に罰せよ!!」

「はっ!!」


 落ち目の公爵の作った法に従う気は無い。

 そんな事を言い出す輩が出てくるかもしれない。

 もしも続発すれば、ミルグランデ公爵領は戦わずに瓦解する。


 公爵は、急ぎ綱紀粛正を図るのであった。

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