幕間:イルムの家
これは兄妹が再開する前の話である。
その日、イルムたちはこれから自分たちが住む家を見に来ていた。
「わ、意外と大きい」
「広いね。何人で住む家なんだろう?」
家の広さは、“貴族が”10人ぐらい住むことを想定したもの。
一般的な庶民の家も10人ぐらい住んではいるものの、あちらは雑魚寝などで無理矢理場所を確保しているため、全く意味合いが違う。
部屋の数は客室含め個人用が12部屋。夫婦の寝室、キッチン、ダイニング、リビング、執務室、書斎、倉庫などもある。他にも庭だけでなく建屋の外には離れと馬小屋もついている。面積で言えば母家だけで平民の家の30倍以上といったところか。
なお、建物は平屋で二階は無い。
貴族の見栄という奴で、土地を広く使う事が贅沢であるという考えに基づいている。
あと、廊下という概念も無い。移動するためだけのスペースを作るという発想が無いのだ、王国の建築には。
元は庶民であるルーナとネリー。二人は家の大きさに、素直に驚いていた。
イルムの方は貴族の屋敷という話だったので元から予想の範囲内。あまり気にした様子はない。
そんな対照的な二人と一人を見て、ややイルムの反応に不満を持ちつつも、シャリーは屋敷の簡単な案内を済ませていった。
家を手に入れたイルムであるが、ここに住むのは今いる三人だけだ。残る嫁とは別居をする。
嫁というと一緒に住むというイメージがあるが、実際は本妻とそれ以外に差を設け、一緒に暮らさないのがこの国の“普通”だ。妻が一緒に住むというのは、相当珍しい事に分類される。
何故かと言うと、揉めるからだ。
家督争いを始め、寵愛を得るために女の戦いをするのだ。
これは女性の持つ本能的な習性と言い換えていい。
男にとって一番であろう、本妻がちゃんといる男に対し、愛など無くても争ってしまうのだ。正妻以外の立場になると、理性が納得しようが正妻に対しムカつくと言う単純な感情を抱いて争ってしまう事が多い。
それを避けるために本妻以外は通い妻や現地妻として別居するのが、この国の基本的な考え方である。
嫁はバラバラにして互いの顔を会わせないようにする。
それが長年かけて一夫多妻制を維持してきた国の出した結論である。
イルムの場合は正妻が二人いてやや特殊だが、たまに妻の間でも仲のいい組み合わせが出来たりするので、それはそれで珍しかったり不思議な話でもなかったりする。
部屋の割り振りに関しては、だいたい最初から決まっているので迷うことなど無い。
屋敷の主用の部屋、その妻用の部屋というのは設計段階で決まっており、完全に固定される。よって部屋選びなど発生しない。客室なども同様だ。
部屋のグレードは立場なども考慮されるために先に決めておくこと。文句があるなら屋敷を建てる前に言わねばならない。
基本的にも応用的にも、あとから建て替えるといった事はしないのだ。やるとすれば一度更地にした後の話だろう。
あとは、屋敷の運用の話となる。
「客人、弟子は基本的に招かな方針でいいとして。
問題は通いの女中だな。雑役女中を三人と、庭師と馬番を兼任する者が一人。それが最低ラインだったか」
「女中さんを雇える身分になったのね。凄いなぁ」
「女中さんをまとめる人が必要ね。女中の中から選ぶつもり? それとも私たちがやるのかしら?」
それは人の配置や。
「馬は三頭預かるみたいだけど……俺しか乗れないんだよなぁ」
「「練習するよ?」」
「うん。それなら時間を見付けて教えるよ」
施設の有効活用。
「それにしても、庭に植えるものはどうするか。
「畑にはしないで下さい」ってシャリーに言われてるし」
「薬草をいくつか育てればいいと思う」
「花の綺麗な薬草類なら怒られない、はず?」
「それは庭師と相談だな。専門家の意見が聞きたい。
あとは地下に『工房』を作らないとなぁ。触媒や薬草だけあっても意味が無い」
出資者の裏をかくための相談など。
決めておくべきことは多い。
一度は村を失い根無し草になったイルムたちだが、三人は公都に根を張り始める。
草は草のままなのか、それとも樹に成ることが出来るのか。
それは、この時はまだだれにも分からない事だった。




