幕間:弟子のその後は
イルムの弟子になったミュロン。
弟子たちの中でも特に努力家で、その成長が著しい。弟子入り半年後には四段階目の魔法に手が届くだろうと言われている。
そのミュロンだが、知的好奇心が旺盛なのかイルムに質問をすることが多い。それも、答えにくい質問をすることが。
「師匠、≪エクス・ファイア≫の魔法の応用なのですが――」
ミュロンは弟子入り4ヶ月目にして三段階目の魔法を覚え、今は≪アレンジ≫スキルの習熟に力をいれている。
彼がイルムによく聞きに行くのは、「魔法の応用方法」よりも「魔法の使用目的」である。よくイルムがやっている「氷魔法で水を作る」といった考え方だ。
イルムの「攻撃魔法を攻撃以外に使い戦いを有利にする」考え方をよく学んでいる。
「≪エクス・ファイア≫のような範囲殲滅魔法はよく収束させて使わないと威力が減衰するだろう? 逆に制御を甘くする感覚を再現して、上手くやれれば指定範囲を最大以上にして威力を落とした、魔力の消耗をあまりしない暖房魔法になる。
冬の寒い時期になると、これが出来る、出来ないで大きく戦力に差が出るぞ。環境をどれだけ整えるかを考えるんだ。
その逆も同じで、直接ダメージを与えられないほどに範囲を広げた≪エクス・アイス≫で相手の体温を下げるのも有効だな。少数に傷を負わせるより、よほど戦況をひっくり返せる。
感覚を掴むまでが大変だが、挑む価値はある」
年下のイルムを師匠と呼び頭を下げるのは、騎士団長の地位まで上り詰めた男には難しい。プライドが邪魔をして当然なのだ。
それを感じさせないミュロンはイルムとしても相手をしやすく、聞かれることにはよく答えている。
だが、答えにくい質問もするのが問題だ。
「師匠、とある魔法書には≪ポイズン≫という魔法について記載がありまして――」
「その魔法は使えると不味い魔法だから。覚えない、覚えようとしないのが大事だ」
使えるようになりはしなかったが、実家でも魔法についてよく学んでおり、イルムが教えたくない魔法についても聞いてくる。
ゲームではお約束の「毒魔法」「混乱魔法」「変身魔法」「石化魔法」など。こういった魔法は使えるようになってはいけないのだ。禁呪でなくとも教えはしない。
本人にどのような意図があろうと、このような魔法は使えるだけで危険人物扱いされるのは間違いない。
最悪な話だが、この手の魔法の習得難易度はあまり高くないのも問題だ。成功率もあまり高くないけれど、それでも危険すぎる。
例えば毒状態にする≪ポイズン≫の魔法だが、現実にはHPなどなく、徐々にダメージを与えるといった事はない。
しかし神経毒、睡眠薬、麻痺毒など。世の中には多くの毒があるわけで、それらを簡単に作れる≪ポイズン≫は最悪な魔法という扱いになる。魔法を使わない解毒はほぼ不可能だろう。
たからイルムは解毒の魔法を世に広めることはあっても、毒の魔法を世に広める気は無い。
そんな師匠の決定にミュロンは不服であるが、従わざるを得ない。
下手なことをして破門されては、いま学べることが学べなくなるからだ。それはミュロンにとって絶対に避けたい話なのだ。
ただ、イルムが規制することと、ミュロンが学ぶ事は本来別の話なのだ。
ミュロンはイルムから離れたあと、公爵の支援を受けつつ、独自に魔法の研究を行う事になる。弟子のその後については、公爵側の魔法研究には、イルムは関わらない。
イルムの仕事は弟子育成、それも魔法使いとしては初期段階だけ。モラル面も指導はするが、年配とはいかずとも年上の彼らの意識にはあまり影響がない。
ここで年齢による指導力不足が足を引っ張る。
イルムの願いは届かない。
魔法の指導者としては尊敬されつつも、人としての在り方には踏み込みきれなかった。
対策を授けられようが、危険な魔法の再現は行われる。
イルムの知らないところで。




