エピローグ:再会
二人に会うのは、他の誰にも知られたくない。
イルムは公爵の屋敷に夜中、忍び込んだ。そしてウノとクリフの部屋を探しだし、寝ているウノの寝室に置き手紙を残していった。
手紙には、もしも会ったことが公爵に知られれば不味いことになるかもしれないということで、三日後に、秘密裏に会いたいと書いてある。
二人がイルムに隔意を抱いていた場合は相応の反応があるだろう。会わないように動くか、それとも公爵に秘密をバラすか。
イルムとしては、普通に会えることを願うばかりである。
イルムが手紙を出して三日後の夜。
約束の日である。
イルムは一人、再び公爵の屋敷に忍び込む。
「警戒は、ザル。いつも通りで変化はないか」
イルムは周囲の気配を探るが、特に変わったようには感じなかった。先日と同じレベルの警戒度合いであり、難なく忍び込めた。
「会っても構わない、そう信じたいね」
別れたあの日。あれから何年も経っている。
ウノは、妹は。兄の事をどう考えていて、どうしたいのか。
イルムは兄として、家族として笑いあえる関係でありたいと、心から願う。
ウノの寝室には、二人分の気配があった。他には誰もいないし、周辺に騎士などが潜んでいるということもない。
イルムとこっそり会っても構わないという意思表示だろうと、そのように判断した。
それでも緊張で固くなる体を無理やり動かし、イルムはドアを開ける。
すると、ウノがイルムの胸に飛び込んできた。
「兄さん。
兄さん、兄さん、兄さん。
会いたかったよ。会いたかった、よぉ」
ウノは泣きながら、周囲に響かないように声を抑えながら叫ぶ。
同じ部屋にいるクリフは、そんな妻の邪魔をしないように距離を置いて、壁に体を預けていた。
イルムが視線を向けると、苦笑しながら、無言で片手をあげた。今はウノを見てやってほしいと、言葉にせず、そう言っているのだ。
イルムは幼子のように泣きじゃくる妹の頭に手を置き優しく撫でる。
そして万感の思いを込め、口を開いた。
「ずいぶん立派になったな、ウノ。
俺も会いたかったよ。会えて、嬉しい」
こうして兄妹は穏やかな空気の中、再会を果たすのだった。
兄との再会に感極まって泣いていたウノだが、しばらくすると、さすがに落ち着く。
そして恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてイルムから離れていった。
今度はクリフの番とばかりに部屋の角に逃げていった。
「久しぶりだな、イルム」
「6年ぶりだよ、クリフ」
男二人はどこかぎこちなさを醸し出しており、言葉が固い。何を言えばいいのかと、言葉を無駄に選んでいる。
そんな中、クリフはいきなり頭を下げた。
「あの時は、すまなかった。場の空気に流されて八つ当たりをしてしまったことを、許してほしい」
「クリフ……。いいんだよ。あの時は俺も大人げなかった。俺の方こそ、すまない」
「お前が謝る必要なんて無いだろ。あれは、あの時、イルムは確かに被害者だったんだから。
謝るべきは俺だろ。本当に、悪かった。すまない」
お互いに昔の話で謝りあう。
互いに自分が悪いと言い、頭を下げる。
何度か不毛な謝罪合戦を繰り返すが、それではらちが明かないと、二人はこれで手打ちと話をつけた。
「これまで何をやっていたの、兄さん?
私、ダーレンで兄さんの名前を何度も聞いたのよ。優秀な回復魔法の使い手がいた、って。
だから私、ここに来たのよ」
「戦場に出るなんてイルムらしくないとは思ったが、話に聞こえた魔法の腕から考えると、やっぱり俺たちの知ってるイルムしかないと思ったんだ。
ああ、俺たちの話もしないとな。きっとイルムほど複雑な話でもないと思うけど」
「いやいや、俺がいなくなってすぐに『聖女』なんて呼ばれるようになったウノよりは大人しいぞ?
三年近く傭兵として盗賊を狩るばかりの毎日だったし」
三人は離ればなれだった時間を埋めるように、自分の話をしていく。
「ルーナ姉とネリー姉かぁ。会いたいなあ」
「やっぱり結婚したか。そうなるとは思っていたが」
「それを言うなら二人も結婚してるだろうが」
三人は翌日は寝不足に悩まされるのだが、そんなことは関係ないとばかりに。
ただ喜びの衝動に突き動かされ、手を取り合った。言葉を交わした。
そうすることがまるで、正しいことであるかのように。




