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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
4章 聖女と守護騎士(王国歴148年)
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嫁の話と

 イルムの行う魔法訓練は順調であった。


 初期の弟子は生贄、もとい、魔法訓練のテキストの検証が主な任務であった。

 機密保持のためにある程度以上の立場の持ち主、騎士団の中で一握りのリーダー格、騎士隊の隊長が選出条件にされていたが、本来であれば、もっと上の貴族の子弟を対象にしたいというのが騎士団上層部の考えだ。


 なぜなら、貴族というのは子だくさんであるにも拘らず、まともな仕事にありつける人間が非常に少ないからだ。





 貴族の男性当主というのは、だいたいが複数の嫁を持つ。

 これは後継ぎとなる子供がちゃんと生まれるかどうかが非常に重要だからで、嫁の産後の死亡リスクを考慮した結果でもある。


 ただ、そうやって嫁を増やせば子供もたくさんできる訳で。

 少なくとも4人以上子供を作ることが当たり前で、そのうち3人は男の子というのが最低条件となる。

 これはここヴァルナス王国が、男尊女卑の国だからでもある。

 女性当主は例外的な存在で、基本は男子が家督を継承するのが常なのである。



 たくさんいる子供のうち、娘であれば嫁に出して終わる。

 男子のいない家が近くにあれば、そこの家へと婿に出し、家督を継がせるといった事もする。平民の元へと送り出すこともある。

 その場合は仕事を用意する必要など無い。


 しかし男子の場合は仕事につけるのが普通で、多くの場合は騎士(消耗品)になる。

 部下、文官という選択肢もあるにはあるのだが、そういった役職はほとんどの場合はすでに家臣がいて、入る隙間が無い事が多い。

 運が悪ければ平民の中でマシな部類の家に奉公人として(・・・・・・)送り出されることになる。


 最悪なのは、そのまま放逐であるのだが。





 イルムが魔法を教えることで、今まで仕事にあぶれていた貴族の子弟が使える人材になるかもしれない。

 そう考えると、魔法使いの人口が今よりも増えるし、冷や飯食いの貴族子弟がずっと減る。誰もが大きく得をする。


 つまり、イルムは周囲からの注目を集めている。

 嫁を押し付けられる程度には。



「今、イルムさんが貴族の誰かと結婚した場合、その家はイルムさんの魔法訓練に対し口を挟む権利を得ます。

 そして育った人にも目上として縁ができるので美味しい(・・・・)ですよね。そして団長にとって、非常に困った話でもあります。

 今ごろ、団長が公爵閣下に頭を下げているはずですね」

「頼りになる上司を持って嬉しいな」

「皮肉を言わないでください。サーベリオン領に3つしかない侯爵家がここまで強引な手段をとるなど、普通ならあり得ない話だったんですから」

「振り回される身としてはちょっと言いたくなるのさ。

 なんとかなる、よな?」

「なんとか、しますよ。そうでなければ……いえ、なんでもありません」


 イルムは現状をシャリーと相談しているが、あまりうまく話が進んでいないようである。

 侯爵という上から二つ目の高位貴族が絡んでいるため、それを諫められるのは公爵のみ、あとは他の二侯爵が掣肘できるだけらしい。

 ただ、三侯爵間のパワーバランスの問題があるので、嫁の押しつけはされないだろうというのがシャリーの見解だ。


 言いよどんだ部分をイルムが無理に聞き出すと、別方向に話が進む可能性がごくわずかにあるというだけだ。


 さすがに三侯爵全てから嫁を出すのは無駄でしかないし、サーベリオン公爵の娘が嫁に来る可能性は「すでに全員婚約済み」なのでありえないと言う。

 婚約者が戦死したりすれば話が別なのだが。

 婚約者に先立たれたシャリーが話し相手なのだが。


 あとは養女を迎える可能性があるのだが、まず、そういったことは無いだろうとシャリーは説明する。





 ただ、この話はシャリーの想定を別方向に超えていく。


 王国歴148年もそろそろ終わる年の瀬に。

 サーベリオン公爵が地方の聖女(・・)を養女にしたという話が持ち上がる。


 娘の名前はウノ。

 平民の既婚者であったが、その夫共々サーベリオン公爵家に迎え入れられた傑物。

 彼女の登場により、状況は一気に変化していく。

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