嫁問題
戦争から戻ったイルムを待っていたのは、当初の予定通り、人材育成である。
裏切者を除いた、残った部下たちではなく、全く別部隊の隊長格を中心に指導することになった。
「新人の様に引き抜かれる奴を教えるより、動かしにくい連中の面倒を見てくれ」
団長はそのようにイルムに命じ、イルムがそれに応えたわけだ。
部隊員には敵からの接触があるかもしれないので、そこだけは当初の予定からやや外れた形になる。
イルム側の要請で、一度に教えるのは5人までとなっている。
大勢に教えるにはイルムの経験が足りず、情報を秘匿するのであれば、教わる人数を絞る方が都合が良いからだ。
その中の一人、ミュロンはイルム謹製のテキストを読み、頭を抱えた。
「今まで学んできたのは何だったのだ! 書いてあることが全く違う! 私は今まで、いったい何をしてきたというのだ!」
イルムのテキスト、魔法の指導要綱は読み手側の独自解釈が入らない文章で書かれている。
通常の指導に使われるテキストが物語風であるのに対し、イルムの書いたものは「~~しなさい」といった命令調である。
しかも、物語の中から読み取れる訓練方法とは全く違う事が書かれていた。
イルムの指導を受けてすぐに魔法が使えるようになったミュロンは、これまでの訓練に意味が無い事を理解してしまった。
その為、これまで魔法の訓練に費やした時間全てが無駄なものに思えてならなかったのだ。
「この内容を、弟たちにも伝えたいが……くそ、許可は下りないだろうな」
この方法で学ぶ者たちには、訓練方法を秘儀として扱い、他に漏らさないようにと厳重な注意がなされている。
それを破れば、お家は断絶、一族郎党縛り首になるかもしれない。
ミュロンにそのような危険を冒す度胸は無かった。
出来る事と言えば、早くこの情報を広める許可が下りるようにと願うばかりである。
「今はとにかく、修練あるのみだな」
今は魔法習得のための試験段階である。
書かれている事がどれだけ正しいかを確認している最中だ。
ミュロンが頑張れば、状況が動くと思って間違いない。
彼は一層の修練を自分に課すため、訓練方法を読み込むのだった。
イルムが実績を挙げるたび、イルムの待遇は良くなっていく。
ただし、貴族からの取り込みもより強まっていく。
これまでは部下に貧乏貴族をねじ込まれていたのだが、そこそこ高位の貴族もイルムに注目しつつあった。
「シャリー。何とかして」
「申し訳ありません。現状でも、精一杯務めさせていただいています。これ以上の状況改善は難しいかと」
「そっかー。伯爵家でも無理かー」
「はい。侯爵家などが相手となると、当家では太刀打ちできませんので」
イルムとしては面白くない話だが、イルムの正妻に、侯爵家の娘をねじ込もうという動きが生まれつつある。
養女ではあったが、かなり強く話を進めているらしい。
「私たちが実質正妻なら問題ないよ」
「私たちに貴族としての看板なんて要らないよ」
「「でも、これ以上嫁を増やしたくない」」
ルーナとネリーも、この件にはあまりいい顔をしない。
ただでさえ部下が5人も嫁になるというのに、さらに増えるというのは勘弁してほしいと考えている。
部下の方はほぼ平民といった下位の貴族なので人間関係に特に大きな問題はなかったが、侯爵といった高位の貴族が相手では同じように扱う事が出来ない。
イルムは貴族としていろいろと厄介ごとを押し付けられる事になるかもしれないと、不安をにじませている。
また、逃げる算段を付けようと考えもするが、それでは戦争に駆り出された分がただ働きになってしまうため、面白くない。
イルムは順調な新しい仕事はともかく、嫁関連で頭を悩ませるのだった。




