噂の聖女
イルムが去っていったダーレン。
そこでは強制ではない、民間人向けの兵士募は行われていた。
シャリーが言うような徴用とならなかったのは、あまり無理に人を集めると、民衆が反発するだけだからだ。
ちょっとぐらいの反発も、再支配をし始めた今は致命傷になりかねない。駐留軍は慎重に事を進めるつもりで動いている。
そうして人の募集がかけられた中には、クリフとウノがいる村も含まれていた。
「悪いが、お前さんらにお願いしたいのだよ。村から一人も人を出さんでは周囲に示しがつかんし、何かあったとき、この村を切り捨てる理由になりかねん。
それに、戦えそうなものも、お前さんらぐらいなんだよ」
村長は、そう言ってクリフとウノに頭を下げた。
村というのは、人口が少ない。
1000人いるような、町のような規模の村も国内にはある。
しかし、彼らの村は300人ほどしか人がいない。
また、生まれてくる時期というのが意外とかぶりやすく、特定の年代に集中しやすい事もある。
そのあたりは人口が少ないことによる弊害だ。
実際、クリフとウノ以外に15~25歳の村人はいなかった。
「妻は――そうですね。一緒に行った方が良いでしょう」
「分かってくれるか」
クリフは一瞬、ウノを置いていこうかと考えた。
が、それをしたくない、“村の常識”を思い出して言うのをやめた。
結婚というのは、村社会にとってそこまで強い拘束力を持たない。
旦那が兵士として数年帰ってこれないという話になれば、未亡人扱いされて他の男をあてがわれるのはまだ平和な話だ。下手をすれば性欲をもてあました男たちの慰み者として夜這いをされかねない。
クリフも村の男として、そういう話を知っていた。
そしてウノがそんな目に遭うのを防ごうと思うなら、一緒に行ったほうがまだマシである。
幸い、ウノは魔法が使える。
戦力不足で役立たずとは言われないだろうし、何気に自衛できる程度の実力はあるので軍でも間違いなどないだろう。
村人相手の自衛であれば、村の風習を盾に無理を押し通されかねないが、軍ならまだ結婚しているという理由で守れるだろう。
……クリフは外の世界に詳しくないので、「だろう」と推論ばかりであるが。
そして軍に入った場合は貴族などが魔法使いのウノを囲い込む為に、権力を振りかざす危険も“かなり高い確率で”あるのだが、そこにも気がつけなかった。
村社会だけで生きてきた人間の想像力としては、これでも豊かなほうである。
こうしてクリフとウノは駐留軍に合流し、ウノの魔法で一気に成り上がっていくことになる。
ウノはその仕事がほとんど回復担当であったことに加え人格面の評価も高く、治した相手から慕われ『聖女』の名で呼ばれることになる。
クリフはその夫と言うより、ウノを守る騎士として名が知られていく。――夫であるという話は、意図的に噂の途中で消えるようだ。
もちろん当たり前のようにウノを自分のものにしようという貴族が現れるのだが、周囲の助けもあり、二人はその魔の手を振り払うことに成功し、より名声を得ることになった。
駐留軍に参戦してから半年も経てば、公都ですら名前が囁かれるほどに。
イルムも当然、その名前に反応した。




