イルムたちの帰還
イルムたちは、ダーレンから撤退することになった。
2ヶ月以上と、長かった戦争に区切りが付いたのだ。その半分以上は事後処理だったが。
ここから先は新たに国境となったダーレンを防衛する、駐留軍の仕事となる。
軍が交替する理由としては、都市を攻め落とす侵攻軍と都市を防衛する駐留軍は性質が違い、戦いに疲れた侵攻軍に休みを与える意図がある。
戦争後のメンタルケアはかなり重要で、これを怠ると兵士の離散が始まってしまう。それも進軍中に、物資を盗んで。
イルムたちのいた軍が撤退するのに時間がかかったのは事後処理のためであるが、もう一つの理由が交替する後任の駐留軍を待っていたからだ。
ようやく、駐留軍が到着したのである。
「これでしばらくは戦わなくていいか」
「イルムは、あの娘たちの問題が残っていますけどね」
「結婚しなくてはいけないのは分かりますが、イルムは今後、注意してもらわないといけないですよね」
イルムは「これで終わり」「区切りが付いた」とばかりに安堵の息を吐くが、嫁二人はチクリとイルムに釘を指す。
あの日はイルムに最後まで付き合わずほどほどで席を離れたのだが、酔い潰されて過ちを犯すとは、ルーナとネリーは考えていなかったのだ。
単純に、イルムを信用していたからなのだが……油断していたのは確かである。
彼女たちを嫁にするのは規定路線になるので、しばらくは寵を競う女の争いをすることになるだろう。
不和を避けるためにと、部下たちは二人を立てることになっているが、それがどこまで守られるかは怪しいものであった。
「まぁまぁ。我が家も支援しますから、金銭面は安心してください」
シャリーは、この件に関しては他人事と言う立場をとっている。
実際、シャリーはイルムに体を許しても良いと考えているが、「しても良い」であり、「そうしたい」ではない。求められれば応じるという話だ。
そしてイルムが求める可能性は、ゼロである。
だからイルムやシャリー本人を含む全員が彼女を部外者と認識している。
「そういえば、駐留軍ってーー」
話題を変えるため、イルムは今後の話、ダーレン駐留軍の事で気になっていたことを口にする。
イルムが気にしているのは、軍の規模などだ。
今出せる戦力で、本当にダーレンを守りきれるのか、と。
「い、大丈夫ですよ。アブーハ公爵も軍を出していますし、最近編入されたダーレンよりも、長く味方だったアブーハ公爵が攻めた土地の方が重要ですから。
裏切り者の伯爵と違い、ミルグランデ公爵は古くからの身内を見捨てられませんよ」
シャリーはアブーハ公爵の行動からミルグランデ公爵の対応を推測し、言い切る。
損得勘定で考えれば、ダーレンよりもアブーハ公爵の側の土地の方が色々と重要だ。だからそちらに軍を出すため、ダーレンへの侵攻は無いというのが常識的判断となる。
二正面作戦をする戦力など無いはずなので、アブーハ公爵に掛かりきりになるだろうと。
シャリーの説明に納得したイルムは、ついでだからともう一つの懸念についても聞くことにした。
「あとは、駐留軍がダーレンに留まれるかだよなぁ」
イルムが気になったもう一つの問題。
それは余所の軍隊がダーレンの住民と問題を起こさないかだ。
サーベリオン公爵たちは、元々はダーレンと仲間なのだが、この時代、この世界では、他の都市の人間は異国人のようなものだ。仲間意識は薄い。
戦勝国と敗戦国の人間の意識差のようなものが軋轢を生むのではないかと考えた。
この質問には、シャリーも苦笑するしかない。
問題は確実に起きるだろうからだ。
「現地住民の兵士徴用で誤魔化すかとは思いますが、問題は必ず起きますよ。
起きないはずがありません」
シャリーとしては、問題を事前に全て潰すことなどできないと分かりきっているので、イルムの考えは青い、現実的ではないとしか言いようがない。
神ならぬ人の身は万能ではないのだ。為政者にそこまで期待する方が間違っている。
イルムはそれを指摘されると、それもそうかと思い直した。
イルムたちは、そんな雑談をしながらダーレンを去っていった。




