浮気
前日の慰労会。そこで飲みすぎたイルムは、ベッドで痛む頭を押さえていた。
イルムはお酒に強くない。むしろ、弱い。
普段はあまり飲む機会に恵まれない事もあり、鍛えることがなかったのだ。
みんなに酒を振る舞うと、お返しとばかりにジョッキに酒を注がれた。そうやって何度もジョッキを空にした結果、二日酔いになったのである。
二日酔いで頭が痛むのは、体に水分が足りなくなるからだ。薄目の塩水などを飲むことで痛みは緩和できる。
イルムは水を飲みに行こうとして体を起こし、自分が半裸であることに気がついた。
そして床に、部下たちが全裸で雑魚寝している事にも。
「もしかして、ヤっちゃったのか?」
イルムは恐ろしい想像をしてしまい、寒さではない理由で体を震わせた。
そして自分の股間を確認し、部下たちのそこも確認し、顔を青くした。
「ヤった、か……」
|ギルティ≪有罪≫。
イルムの頭に、そんな言葉が浮かんだ。
血が付いていたり、分かりやすい臭いがしていたり、汚れていたり。これで何もしていないと考えるには、無理がある。
性的な意味で一線を越えていた。
それも、まとめて五人。
全員ではないが気休めにもならない。
嫁二人の激怒する顔が見えた気がした。
「……寝よう」
あまりに絶望的な現実に見切りをつけたイルムは、現実逃避をするのだった。
当たり前だが、このあとルーナとネリーの怒髪が天を突いた。
嫁以外に手を出してしまったことで、イルムの立場はとても悪くなった。
酔った勢い、そうは言っても無かったことにはならない。
女性側はみんな初めてであり、婚前交渉など論外の貴族令嬢だからだ。平民とは違うのである。
これが報告されれば確実にイルムのところに押し付けられる。
いや、すでにそれ以外の選択肢はない。
なにしろ、彼女たちは最初からそれを覚悟するように言い含められて集められた人材だからだ。
狙い通りなのである。
「それで、みなさんはどうするんです?」
「旦那様は彼女たちと結婚するんですか?」
昼の休憩時、嫁たちは冷静にイルムに問いかけた。
最初、朝のうちは激昂していたルーナとネリーだが、時間が少し経って頭が冷えたようである。今は落ち着いていた。
二人は同じ村で姉妹として一緒にいた経験があるからイルムをシェアしても大きな問題を起こさなかったが、部下たちは立場や境遇が全く違う。二人のように上手くできるとは限らない。
そんな危険を受け入れるのかと、冷静であるがきつめの視線をイルムに向けた。
イルムの方は、時間経過で記憶が戻ってきたこともあり、自分がやった事でさらに顔を青くしている。
悲しいかな、イルムが冷静になるにはまだ時間が必用なようである。
もし今結論を出しても、ほぼ確実にロクな事にならない。
残念なことに、イルムには修羅場を切り抜けるスキルがなかった。
そんなことを想定する戦略・戦術シミュレーションはない。恋愛シミュレーションだって普通は用意しないだろう。
悩んでいても、何も変わらない。
馬鹿の考え休むに似たり。
そんな言葉がイルムの頭に思い浮かぶ。
物理的に近くになった部下たちに、イルムは気まずい思いをすることになるのだった。




