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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
4章 聖女と守護騎士(王国歴148年)
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戦後処理

 サーベリオンの騎士たちの突撃。

 ダーレンの盾持ち槍歩兵の壁をぶち抜き、その奥の弓兵や、交代要員として控えていた兵士たちの列までを蹂躙した。


 そう。まさしくそれは蹂躙だった。

 この時突撃した騎兵は、おおよそ200騎。

 そのほぼ全員が10人近い兵を殺すか再起不能にしたため、ダーレンの歩兵は2000人以上の死傷者を出してしまったのだ。

 そしてその中には、ダーレン伯爵その人も混じっている。


 この2000人というのは、ダーレンが動員した兵士の4割程度の数だった。

 そこに至るまでの、弓を用いた戦いでも300近い怪我人を出していたため、これでダーレン側の被害は約5割。おおよそ半数だ。


 大将であるダーレン伯爵の討ち死に、軍として駆り出された兵士半数の死亡。

 つまり、この戦いは“ダーレン軍の全滅”という形で終止符が打たれた。





 通常、軍の全滅とは大将の死亡と5割どころか3割程度でもそう言われる。

 2割削られても戦では負け、半壊などと言われるほどの損害であり、文字通りの全滅というのは滅多にない。


 なぜなら、損害が1割でも出ようものなら、かなりの数の兵士が逃げ出すからだ。

 逃げ出した兵士は戦場では(・・・・)死なないのである。

 そうなるとだいたいの戦争では、軍の被害を2倍、3倍に見る事になる。よって、3割の損耗を全滅と言う事もある。


 もしくは、軍の再編をするときに、軍団が組織としてそのまま維持できるかどうかのボーダーラインが3~5割という話もある。

 この辺りは、軍を記す者の裁量であろう。





 ダーレン伯爵が討たれたことで、兵士のほとんどはその場で降伏した。

 武器を捨て、両手を挙げて命乞いを始めた。

 サーベリオン公爵軍も、そうやって降伏したものに向ける刃は無い。武具を装備していた者をその場で放置するわけではないが、とりあえず一所に集め、監視するにとどめる。

 下手に根切り(皆殺しに)すれば無駄な抵抗をされるし、のちの領民が減る。誰にとっても、何も良い事が無いのだ。


 残る少数は、背を見せての逃走だ。

 冷静な思考ができればその場で降伏するのが正しのだが、仲間の死に()てられ、恐慌状態に陥ってしまったのだ。

 こちらについては追撃し、討ち取る事になる。

 武器を持ったままの者を放置することはできないので、これも仕方がない処置なのだ。

 一応声掛けぐらいはするが、冷静さを失った状態ではまともに話を聞いてくれないし、足を止めた所を殺されるという強迫観念に支配されていたりもする。

 残念だが、彼らが冷静になるまでゆっくり時間をかけると言った事はされない。



 そうやって怪我人を含め生き残った3000人をサーベリオン軍は武装解除した。


「『あまねく光のごとく、我は傷を癒そう。流れる風のごとく、疾く、救いの手を差し伸べよう。傷よ消えろ』≪ライトヒール・シャワー≫」


 怪我人には治療が施され、死なない程度の処置がされた。

 もちろんと言うかそういう職場にいるのだから当たり前だが、イルムも駆り出されている。


 イルムは目立つことを厭わない種類の人間だったので、広範囲回復魔法を使って怪我を治していく。

 ひとりひとりチマチマ治すのと違い、大人数をまとめて治せる環境であるのなら、魔法による治療も選択肢に入るのだ。

 また、水の補給の目途がついたため、水を自由に使う許可が出た事も回復魔法が解禁になった理由である。


 ルーナとネリーも≪ヒール≫ぐらいは使えるので、ここで魔力を使い切ってしまえとばかりに回復魔法を使っている。



 ルーナとネリーのように、≪ヒール≫ぐらいであれば使い手は珍しくない。

 が、≪ライトヒール・シャワー≫のような広範囲回復魔法まで使える者はかなり珍しい。皆の視線がイルムに集まる。

 本人は2回ほど同じ魔法を使い、早々に魔力切れで通常の治療に切り替えていたが。





 イルムたちが治療をしている間、騎士団長ら幹部は自軍の被害と降伏した敵の状況の把握をしていた。


 部隊ごとに被害報告を出来る自軍は良いが、ダーレン軍の被害は指揮官クラスの人間が大勢死んでいた為になかなか進まない。

 生き残りの連中に仲間を探させ、その集団の中からリーダーを選出させて被害状況を把握しようとしているが、その場にいた兵士の大半が一般市民(街壁の中の住人)である。村人(街壁の外の住人)よりはマシだが、まともに教育を受けていない者が多く含まれており、行動がいちいち遅く、効率が悪い。

 “戦争とは、戦っている時間よりも準備と後始末の時間がよっぽど長い”とは金言であるが、ダーレン軍の被害が正確に分かるようになるまで、あと数日はかかるだろう。その日のうちには絶対に終わらない。


 被害がはっきりした後は、死んだ者の遺族へ見舞金を出さねばならないし、生き残った者の中で特に戦果を挙げたものを評価して褒章を出さねばならない。

 この辺りが騎士団長にとって最も頭の痛い話であり、公平性を演出(・・)しつつ、目ぼしい者に特に目をかけねばならない。

 完全にシステム的な平等論は、組織にとってマイナスにしかならないのだから。



 と、そうやって忙しそうにしている騎士団長の所に、部下が一つの報告を持ってくる。


「団長。周辺の村より、帰属・保護の要請が来ています」


 どうやら、騎士団長の忙しさは戦争以上になるようであった。

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