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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
4章 聖女と守護騎士(王国歴148年)
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イルムの戦場

「ああもう! 黙ってろよお前ら! 我が儘言うんじゃねぇ!!」


 後方支援部隊の陣地。

 そこは前線に劣らぬ“戦場”だった。


「包帯、追加、置きます!」

「水桶、補充しましたー!」

「「イルム様、水が足りません!!」」



 イルムたちの仕事は、おおよそ3つ。


 物資の運搬、支給。

 食事の用意。

 そして、怪我人の治療だ。


 戦闘中に行う業務はほとんどが治療になる。

 弓兵への矢の支給ももちろんある。弓の弦が切れる事もあろう。弓そのものを持って戦場を走る事もある。

 だが、大量に出る怪我人が後方へと回収されるたび、治療に掛かりきりになる訳だ。


 魔法を使えるという事は、それだけ治療方面の仕事が多いのである。



ヒール(回復魔法)が使えるんだろう!? 早く治してくれ!」

「うるせぇ! 魔法で治して貰おうなんざ10年早い! 大人しくしていろ!!」


 魔法を使わない治療関連の技術で言えば、イルムはそこそこ程度の腕前であると自分で評価していた。

 が、実際はベテラン並みの技術と知識を持っていたようである。



「アリョーシャ! 包帯を巻く前に怪我を洗い流せ! 手を抜くな!」

「ピナは包帯をもっと強く巻く! 解けるだろうが!」


 イルムたちの部隊は経験値の低い者が多いため、あまり怪我の酷くない者を中心に治療している。

 だが、そんな軽度の治療すら満足にこなせない隊員がいるため、イルムは自分の患者の相手をしつつ、周囲の仲間がやった治療が十分かを確認しなければいけなかった。

 そして、3割ぐらいの確率で怒鳴り声をあげなければいけなかった。



 ここにいる怪我人のほとんどは、矢で腕や足を射抜かれた連中である。状態は軽傷(全治一ヶ月未満)から重傷一歩手前(全治約一ヶ月)といったところであった。

 だが、中には運悪く胴体を深く損傷した兵士も連れて来られる。他が捌ききれなかった重傷者だ。


「すまん! こいつ、何とかなるか?」

「――≪ヒール≫。全快までは治さないが、これで何とかなるだろ。あとはそこらに転がしておけ」

「助かった!」


 担架のような物は無いため、怪我をした仲間に、友軍の兵士が肩を貸すようにして連れてきた。

 連れて来られた兵士は胸当ての下、鳩尾のあたりに矢が二本突き刺さっていた。


 イルムは素早く矢じりを落として矢を抜くと、初歩の回復魔法(ヒール)で腹の傷穴を塞いだ。

 残念ながら、ここまで深い傷になると≪ヒール≫一回では完全回復しない。もしも全快させたいなら、もう二回は≪ヒール≫を使わないといけない。もしくは、もっと上の回復魔法を使うか。


 イルムがそうしないのは、魔力(MP)管理の問題だ。

 イルムはかなりの魔力量(最大MP)を誇るが、そのイルムでも≪ヒール≫の連続使用は40回程度が限界だ。それ以上は半日程度のインターバルを要する。

 ならば、緊急治療が必要な者のみに≪ヒール≫を使い、それ以外には魔法を使わない治療をすべきだ。


「≪アイス・ロック≫。ネリー、水だ。持って行け!」

「はい!」


 それに、それ以外にも魔法を使っている。

 主に綺麗な水の用意で、それに魔法を使っているのだ。


 陣地に井戸を掘っている暇は無いし、近くの川から水を汲むのも現実的ではない。

 軍需物資として飲料の確保はされているが、それを勝手に使う許可は出ない。怪我の治療という重要行為であるが、怪我の洗浄という行為に必要な水の使用量は計算が難しく、計上されていないのだ。治療用の水が欲しければ自前で用意するしかない。


 イルムは、氷属性の攻撃魔法を最小威力でほぼ失敗、ギリギリ成功しているという形で発動させ、水を確保している。

 氷の魔法の失敗は「凍っていない、ただの冷たい水を出すだけ」という裏技である。

 これだと魔力の消費も少なく、非常にコストパフォーマンスが良い。





 イルムたちが治療行為を行っていると、前線の方角から大きな音が響く。

 大気を振るわし大地を揺らす、戦の音。


「やれやれ。また忙しくなるな」


 大きく戦況が動くのが、後方でもわかる。つまり、また多くの怪我人が出るだろう。

 イルムは休む暇もなくなることに嘆息した。

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