プロローグ:騎士団の一撃
ダーレンでの戦いは佳境に入っていた。
「第一部隊、突出し過ぎだ! 呼び戻せ!」
「右翼押されているぞ! なにやってんの!」
「くそ! 怪我人を後方へ! 治療させろ!!」
ダーレン伯爵は軍を街の前に展開。籠城ではなく野戦を挑んできた。
前線はすぐに接敵し、戦端が開かれる。
最初に飛び交うのは矢の雨だ。
双方、ここで使い切るかのような勢いで弓を引く。
弓兵は狙いなど付けない。ただひたすら、前を向いて弓を引くのみだ。そうやって矢の雨を作り出す。
ただし、弓と矢はあくまで戦いの序盤を彩る先駆けに過ぎない。本番はその次、騎馬の突撃だ。
矢が飛び交う事で、互いの最前面に立つ、盾持ちの兵士たちがどんどんと倒れる。
彼らは盾のみではなく、長さ3~5mもの、とても長い槍を構えていた。それは騎馬の突撃を防ぐ馬防柵を作るための槍。特に訓練も受けていない兵士が与えられる武器にして防具。
つまり彼らは、どのように表現しても人間でできた盾でしかない。
その盾が放たれた矢により軍勢から剥がれ落ちていく。
盾がなくなれば、騎馬による一撃だ。
この一撃こそが、軍を烏合の衆へと変える最強の一手。
戦場において騎兵が最強とうたわれる所以である。
先に動いたのはサーベリオン軍。前列に隙間ができ、その隙間を縫うように騎馬が現れた。
それに呼応するように、ダーレンの騎士も前に出る。
「突撃ぃぃーーっ!!」
響く銅鑼の音色、部隊長たちの号令。
そして駆け出す、馬の蹄が大地を駆る轟音。
音は大気を震わせ、そこにいる者たちの耳を苛むが、気にする者など一人としていない。
この一撃で、勝敗の大半が決するからだ。
言い換えると、自分が生きるか死ぬかは、この瞬間に決まるのである。
騎馬に乗る者乗らぬ者。
手にした馬上槍に。
手にした長柄の槍に。
引き絞る弓の弦に。
敵の姿が見えなければ固唾を飲んで。
その瞬間を待つ。
ダーレンの騎士も、確かに突撃はしたのだ。
しかし彼らは大半が途中ですれ違う騎馬に馬から叩き落され、人馬いずれかが矢傷を負い、あとのほとんどは槍の餌食となった。
運良く敵陣までたどり着けた者も、袋叩きにあってその命を奪われた。
対するサーベリオンの騎士はそのほとんどが無事であった。
人馬ともに鎧をまとい、矢を跳ね返した。
陣にて構えられる槍はすでに隙間だらけ、無き物のごとく駆け抜ける。
そして駆け抜ける馬に、多くの兵がはねられ死んでいく。
たとえその場で死なないまでも、戦闘不能であるのは確かだろう。
これで戦況は一気にサーベリオン軍に傾いた。
サーベリオン軍の使う軍馬の体重は、400㎏前後である。
これは世界を見渡せばやや小型の馬であるが、王国では最も普及している品種の馬だ。小回りが利き、体力もある。
そして、たとえ馬にしては小型だろうと、鎧をまとった騎士と共に駆ける事ができるし、人間の数倍ある体重での突進力は脅威の一言。とても耐えられるものではない。
さらに、この世界特有の魔力などを消費して使うスキルも存在し、物理法則を超えた破壊力を生み出す。
この世界では、魔法による攻撃を除けばだが、騎士の一撃こそ最強なのだ。
そんな戦場の趨勢からは離れた場所で。
イルムは自分の戦場で、とても忙しそうにしていた。




