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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
3章 英雄の台頭(王国歴145~148年)
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魔法の手引書

 イルムは問題の先送りしようと決めた。

 相手が一番求めている事は魔法なのだし、自身の価値を落としつつ、女性を宛がわれることを避けるために、魔法の指導に力を入れることにした。


 問題は、今が行軍中という事だ。

 指導をするにも、部下である彼女たちは仕事をしなくてはいけない。お客様待遇のイルムとは違う。

 夜を含めて時間を取れないから、直接指導はまずできない。


 そうなると今のイルムにできる事は、魔法の手引書を作る事だ。

 軍の極秘情報扱いで指導要綱をまとめれば、その指導方法が機能すれば、イルム自身の価値は無くなる。


 作ったあとは敵対組織に情報を流されないようにと、人との接触の制限するために国元に留められるだろうが、それは大きな問題ではないので気にしない事にする。



「ルーナ、ネリー。これに目を通してみてくれ。

 昔やった魔法の指導なんだけど、その時の内容をまとめてみた。俺の記憶違いが無いか、確認してほしい」

「ああ、こんな事もやったね。懐かしいな」

「ああ、そう言えばこんな事もするように言われてた、かな? あんまり覚えてないけど」


 イルムはまず、大雑把な事だけをピックアップし、目次のつもりで書き出してみた。

 それだけでは細かい部分がかなりぼやけてはいるが、経験者であればなんとなく内容が分かるという物になっていた。


「あれ? 精神集中に良いからってやってた事は?」

「あれ? 魔力を高める訓練だけど、こんな事もしたよね?」


 ただ、どうしても記憶だけで書けば項目レベルでも漏れが出てしまう。

 これは実際に指導していたイルムとそれをやっていた二人の差であり、印象の強さの違いだ。イルムが何となくでやらせた訓練も中にはあり、そういった、重要ではなさそうな訓練が省かれていたのだ。

 その重要ではない訓練も有効であったかもしれないからと、イルムは項目を書き足していく。


 中には魔法を使う上での運用訓練も含まれるため、魔法使いになるための訓練ではない事も混じっていたが。

 イルムは項目を訓練の目的別に選り分け、新しい紙に清書する。



「あとでまた、細かい内容をまとめていくから。その時は二人に内容を確認してもらいたい。

 お願い出来るか?」

「「もちろん」」


 項目の後は詳細を詰めていくだけだ。

 イルムは項目ごとに訓練内容の詳細を書き出していく。


 途中で「書いている内容をもっと詳しく書くべきか?」「この順番では分かり辛い。順番を入れ替えよう」「説明間違いだな。書き直さないと」といった事が起きる。

 白い紙に鉛筆で書いていれば消しゴムを使ってどうにかなることも、羊皮紙に筆を使いインクで書いていればあまり直しは出来ない。羊皮紙の書き損じはナイフなどで削って対応するとはいえ、限度があるのだ。


 そこでイルムは、書いた内容をある程度まとまるようにしながら、紙をバラバラに切っていく。

 パズルのようになった紙を、針で板の上にくっ付けながら、順番の入れ替えや書き足しを行う。原案が完成した段階で二人に確認をお願いし、修正が必要な部分を探してもらう。


 そうやって内容がまとまってから清書を行い、分かりやすくまとめていく。



「これ、行軍中には終わらないな」

「馬車は揺れるし移動中に書けないから、しょうがないね」

「夜は明かりの油を使い過ぎたら怒られるし、しょうがないよね」


 イルムは自分の持っている空き時間を使い、のちに「始まりの魔導書」と呼ばれる一冊を書きだした。

 完成するのは行軍が終わってからになるのだが、この一冊がイルムの運命を大きく変えることになる。


 その事は、今、誰も知らない。

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