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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
3章 英雄の台頭(王国歴145~148年)
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部下の不満

 ダーレン領の内部に軍を進めても、ミルグランデ軍は現れなかった。


「このままダーレンを落とすのか?」

「そう、ですね。その予定のはずです」


 サーベリオン軍は、ダーレンを取り返すことを第一目標にしている。

 第二目標は、敵将の捕獲だ。敵の有力者を捕虜にすれば、少なくないダメージを与えられる。


「ダーレンは旨みが少ないからなぁ。取り返されても構わないと考えている、とか。

 ダーレンの領主が変に手柄を立てたことで、周囲と反目し合って援軍がない? そうなるとダーレン単独でサーベリオン軍を迎え撃つわけだし、戦力が足りず、領都ダーレンで迎え撃つしか出来ないかな?」

「その方がありそうですね。もっとも、我々の任務は変わりませんが」

「俺たちが狙われるんだよなぁ」

「はい。ですが、周囲の警備は万全です」


 上官と直接やりとりをするシャリーと今後の予定について話し合っているが、こう、敵と戦わずに軍を進めていると、不安になる。

 こういう、敵地に深く潜り込んだ時は補給が難しくなるので、よくある戦記物ではイルムのいる支援隊、輜重隊が狙われることが多い。そこさえ潰せば、直接戦わずとも勝てるようになるからだ。

 敵軍の兵力に不安があるなら、まず間違いなくそれを狙うだろう。むしろ、それ以外に勝ち目がないはずだ。

 自軍もそれを警戒して、支援隊への防御を厚くしている。



 ふむ、とイルムは悪い可能性を考えた。

 防御が厚い支援隊を直接狙うのが難しい時、自分ならばどうするのかを。


 軍としてなら、自分一人が自殺覚悟の特攻を仕掛けることになるだろう。

 一人なら敵に発見される恐れがまず無いし、食糧や武具に大ダメージを与える(すべ)もある。やったあとに生きて帰ることは難しいが、そこに目をつぶれば成功すると思う。軍としてはそれで正解だ。


 それ以外の手段を取るなら、(イルム側)に内通者を作るのが現実的だ。

 ダーレンの領主は、元はサーベリオン公爵の派閥の人間だ。顔見知りは多いし、何らかの弱みを握っている可能性もある。それならほんの少し警備に穴を開けるとか、なんならこちらの情報を流させるだけでも良い。普通に立ち回るよりも成功率が上がる、はずだ。


 他の手段としては、地形を利用した攻撃になる。

 戦記物でありがちな手段としては、川をせき止めて、敵が川底を意識せずに通っている時に水を解放、濁流で押し流すという物などがある。

 あとは落石などがあるが、これは山間部という分かりやすい地形を使うし、警戒しやすいのでやられることはないだろう。

 ありがたいことに、元味方ということでダーレン周辺の地形は完璧に把握してあるのだが。


 夜襲に朝駆けでこちらの疲弊を狙う作戦もあるが、今のところ、その兆候はない。

 おそらくだが、それはないはずだとイルムは考える。やったら少ない兵力を更に削ることになるし、最後の決戦で勝てる見込みを作るには悪手となる可能性が高い。

 ただし、敵に援軍があるのであればやる価値もあるだろう。警戒は解けない。



「イルム様。本日は夜番ですが、イルム様は寝ていてもらっても構いませんよ? 許可は取ってあります」

「それは出来ない相談だ、シャリー。

 隊長だからと言って夜番をサボれば、周囲が不満に思う。仲間として見てもらえなくなる。

 役割はちゃんと果たすよ。仕事だからね」

「そう答えていただいて安心しました。団長も同じ事を言っていまして。もし本当にしないのであれば、問題になっていたところです」


 今後ではなく、本日の予定を確認しているところで、シャリーが夜間の警備について提案してきた。

 イルムだけ、休んで良いと。


 イルムがそれを断ると、シャリーは冗談だと、休むのは良くないと言われていることを明かす。


「俺を試した、ではないか。どういう意図があっての冗談だ?」

「お暇そうでしたので。場をかき乱す、ちょっとしたイタズラですよ」


 シャリーはイルムに弁明すると、小声で「誰にも手を付けてくれませんし」と付け加える。イルムにだけ聞こえるように。

 このイタズラには、周囲の「隊員に手を付けろよ」という不満があるという、そういう警告を含んでいたようである。イルムはかなりうんざりした。


 貴族間の風習に疎いイルムだが、貴族には後家や未亡人など、連れ合いを無くしてしまった者に対する補償をする一方で、手を出して関係を深めることがあると言われている。

 本当かどうかは分からないが、女を抱くことも仕事だと圧力をかけられているのだ。


 他の誰かに任せろよと言いたいイルムだが、貴族達には全体的に余裕が無く、余裕のある者も身内が優先。

 その身内にする(・・)ためにも、イルムが抱く必要があるというのが彼らの言い分だ。

 当然、嫁のいるイルムは断りたい。



 イルムの戦争は、剣を用いるものではなく、ベッドの上でするものらしかった。

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