技術格差
後方支援とは言え、戦場に駆り出されたイルム。
何が起こるか分からない為に、常に緊張を強いられるのだが……。
「出番、何も無いな」
「「はい。何も無いです」」
どこかの遊撃隊が輜重隊を狙うという事もなく、支援部隊であるイルム達に戦闘の出番は無かった。
もちろん、本来の任務である荷物の運搬、各部隊への備品支給、朝と昼の食事の用意など。そういった通常任務はちゃんとある。
しかし。
しかし、なのだ。
「副隊長、作業完了しました」
「こちらも問題ありません」
作業を担当する人間が優秀だからか、三人以外だけで仕事が終わってしまうのだ。
部隊の正式な隊員である女性達は、そこまで優秀ではない。ないのだが、本当に実務を担当する人たちは優秀な為、イルムには仕事が回ってこない。
通常、隊長職にあるものは隊員と同じ仕事を「してはいけない」。
隊長と隊員の間にはちゃんとした差があり、職分を侵してはいけないという考え方だ。隊長であるなら、隊長としての仕事を十全にすべきだと言われてしまう。プレーイングマネージャになってはいけないのだ。
結果、イルム達は暇を持て余してしまう。
「こう暇だと、副業に精が出るな」
イルムのやるべき事というのは、驚くほど少ない。
自分を無理にでも採用した上司達の思惑はすでに聞いている為、本当に腰掛け程度の扱いをされている。
名ばかりの従軍であり、従軍したという箔が欲しいだけの部隊長。
隊員に手を出して良いという許可までもらっていれば、本当に戦争に参加しているのか疑わしくなる。
従軍とは、一体何なのか。
イルムとしてはそう言いたくもなる。
「イルム、ここで作っても持って帰れないよ?」
「イルム、作るのはいいけど、嵩張るからどうにかして?」
そんな従軍中にやることは、副業ぐらいだ。
主に金属精製である。
攻撃用の魔法には3つの系統がある。
炎、氷、雷の3系統だ。
そのうちの一つ、雷の魔法を使えば地面にある砂鉄を集めることは容易である。
炎の魔法を使えば砂鉄を溶かして固めることも難しくない。
ただのインゴットを作るだけならその後の扱いは雑でも問題なく、氷の魔法で急速冷凍して持ち運べるように加工する。
イルムの場合、慣れているので1時間で5kgのアイアンインゴットが作成可能であった。
もちろん、魔力はほとんど消耗していない。
「こっそり、軍の荷物に紛れ込ませているから大丈夫」
「「大丈夫じゃないよ!?」」
イルムのあまりにも酷い行動に、思わずルーナとネリーが突っ込みを入れた。
イルムの行動は周囲から見れば非常識の一言であり、それを理解している二人は無駄に注目を集めないようにすべきと思っていたからだ。
注目を集めれば厄介事がやってくるので、どうして危険を背負い込むような真似をするのかと。そう言っている。
「分かってるよ。ただ、かなりやばいぞ、サーベリオン軍」
イルムがこんな事をやっている理由の一つは、サーベリオン軍の装備の貧弱さだ。
それを少しでも改善したくて、したくもない金属精製をしている。
領内に出回っている装備の品質が、他の2公爵の物と比べ、明らかに劣っている。
金属精製関連ではどうしてもアブーハ公爵領の物に劣るのはしょうがない。あちらはそれが専門だからだ。
しかし、ミルグランデ公爵領側と比較しても、サーベリオン公爵領の物は劣っているとイルムは判断している。本来であれば条件がほぼ同じである為、技術格差などあまりないはずなのに、だ。
イルムは気が付いていないが、木材の産出地であるミルグランデ公爵領は、燃料の産地ということでもある。
そのため、金属精製に使う炉の性能が良いのだが、イルムはそういった事情をあまり知らない。
金属精製は国の重要機密の為、一般人に毛が生えた程度のイルムには情報が回ってこないのだ。
そんな国の事情は知らないが、装備の性能で大きく劣ると思われる自軍が戦えば、被害が大きくなることが予想される。
「案外、前に負けた理由って、そこが関係しているのかもな」
騎士団長レベルであればアブーハ公爵領製の装備を買っているだろうが、一般兵はそうもいかない。
両軍の装備の性能格差に、イルムは頭を悩ませるのだった。




