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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
3章 英雄の台頭(王国歴145~148年)
33/135

戦乱、再び

「イルム部隊長、本日よりイルム隊に配属されましたヴィヴィアン=ローズ、以下5名。よろしくお願いします!」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」


 イルムの部隊員として配属されたのは、15~27歳までの美女・美少女だった。

 一応、全員貴族の娘である。


 この王国の貴族制度では貴族を名乗れるのは家名1つにつき、当主、その配偶者、後継者の3人だけである。

 この場にいるのは全員、後継者ではない女性であるため、「貴族の娘」であって「貴族」ではない。

 なので、家名を名乗る事はあっても、貴族とは名乗れない。身分は平民でしかないのだ。



「と、いう訳ですので、この部隊にいる貴族は私一人です」


 そういう訳で、対外交渉はシャリーがすることになる。

 シャリーは長女であり、兄弟はいないので、今のところ女当主になることが決まっている。もしも両親がどこかから養子をとれば話は変わるのだが。


「残念ながら、どの家も今は男子を手放すことができません。もうすぐダーレンを舞台に戦が始まるので、数少ない男子がさらに減るからです」


 その予定は無いようである。



 イルムの部隊に配属されたのは、美しい女性というだけではない。

 先の戦で恋人や夫を亡くした、結婚相手のいない女性ばかりというのが一つ。

 もう一つは、実家が貧乏であるという事だ。


 親が貴族とは言え、その経済状況は平民の大商人よりもずいぶん劣る。ちょっと裕福な平民程度の収入しかない。

 なので、騎士を出すというのはかなり難しい。

 騎士の使う剣や鎧、それに乗る馬に付き従う従騎士。お金はどんどん出ていくのだ。


 武器や防具というのは持っているだけでも管理費用や修理費用がかさむし、親から子へ譲るにしても体格差を考慮して調整が必要になったりするし、戦えば欠けたりして修理に出さねばならない。そんな金食い虫だ。

 馬は食費が人間の数倍で、貧乏騎士は馬の食費が一家の食費よりも多い事などザラである。購入費用だって安くない。

 従騎士は騎士の面目を保つためにやはり最低限以上の扱いをするので、ここでもお金は出ていく。


 騎士とは爵位の無い、貴族として最下級の階位でしかないので、名誉だけの貧乏人が非常に多い。世知辛いのだ。




「イルム隊長は魔法が得意と聞いていますが、どのような魔法が使えるのでしょうか?」

「あ、私も興味があります! 教えていただけないでしょうか?」

「ずるい! 私も!」


 そんな騎士たちは長く家が続けば互いに協力できるところは協力し合い、そういった伝手を確かにするために婚姻関係を結ぶ。

 また、ある程度裕福な爵位や役職持ちの貴族と婚姻関係を結んで資金援助を求める事がある。


 そんな彼女たちが戦争で結婚相手を失ったというのは、実家が金づるを失ったと言ってもいい。

 だから少しでも金を稼ぐためにイルムの部隊に来たのだ、彼女たちは。

 イルムとそういう(・・・・)関係になれば良し。そうでなくとも仲良くしてくれればそれで構わない。魔法を教われれば殊勲賞。そういった話を受けている。



 婚約者や夫と言ったところで、その関係は打算でしかない事も多く、結婚相手を見付けるのが絶望的であれば体を安売りするしかない彼女たちは必死だ。


 彼女たちの背景を知ったという訳ではないが、何となく察しているイルムたちは複雑である。

 境遇を考えれば助けてあげたいと思いはするが、だからと言って仲良くする(・・・・・)のは躊躇われる。イルムは既婚者なので。

 ルーナとネリーも同様で、助けたいけどイルムには手を出して欲しくないと思っている。


 ――とりあえず、魔法を教えておけば安全のはず。


 イルムたちはそうやって現実から目を逸らす。



 そんな事をしているうちに時は過ぎ、ダーレンへ軍が進められる事となった。

 イルムたちも出撃命令が出ている。


 王国歴147年、春。

 軍靴の音が再びダーレンに響く。


 時を同じくしてミルグランデ公爵領に軍を進めたアブーハ公爵軍も、離れた所で戦いを始める。

 王国の内乱は、今まさに全土に戦火をまき散らそうとしていた。

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