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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
3章 英雄の台頭(王国歴145~148年)
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徴用交渉・後

「お願いします! 私にできる事なら何でもします!

 ですから、どうか、どうかお願いします!!」


 いきなり土下座をされては、普通の人は困るだろうとイルムは思った。

 目の前で頭を下げるシャリーは必死であり本気であり、鬼気迫るものを感じた。



 だが、それだけである。

 イルムの心は動かない。


 誰がどうなろうと、イルムは気にしない。

 もしも嫁の二人に何かあれば命をかける事も厭わないが、その他に対して命をかけるなどありえないと思っているのだ。

 戦場は「まさか」という事が起こりうる場所で、イルムはそんな場所に立ちたくない。


 これがジャンであれば命はかけずとも、多少の労苦は構わないと言うだろうが。

 だが目の前の、今日会ったばかりの女性がどうなろうと知ったことではないのだ。片手間で助けるぐらいのモラルはあるが、必死になってまで助けるほどでもない。



「あんまりさ、上官を信じられないってのが一番の問題なんだよ」


 ただ、そんな彼女に免じ、イルムはほんの少しだけ妥協というか、自分の中にある不安を吐露することにした。


「兵士っていうのは、上官が死ねって言えば死ぬのが仕事だ。

 上官は国や仲間を守るため、誰か一人を犠牲にしなきゃいけないって時はその誰かに死ねって言わなきゃいけない立場だ。

 戦場に絶対はない。その誰かに自分が成らないなんて甘い考えは持てない。

 なら、そもそも戦場に立たなきゃいいって思ってるよ」


 死にたくない。

 国に命を差し出す兵士になどなりたくない。


 イルムが言っているのは、たったそれだけだ。

 だからこそ、何を言われようと首を縦に振らない。


 今は(・・)命をかける(・・・・・)理由が無い(・・・・・)



 シャリーはようやくその事に気が付いた。

 その意味に気が付いた。


 イルムは、ただ嫌だと言っているわけではない。

 この場に来たのだからと、最低限のマナーとしてこちら(シャリー)に勝利条件を用意していたのだ。

 自分からそれを求める気は無いが、命をかけるだけの理由を作って見せろと。

 そう言っているのだ。



 情に訴えかけて引き出せた情報を、シャリーは必死に考える。

 普通の兵士、普通の平民であれば自分の地位だけで動かせる。地位に縛られないイルムをどうすれば動かせるのかを。


 自国の人間であれば郷土愛、地元住民との絆、そういった“しがらみ”が人を動かす。

 だが他所から来たイルムにはそれが無い。

 逆に言えば、ここを故郷と(・・・・・・)定めれば(・・・・)命をかけていいという見方ができる。


 友人知人というならジャンがいる。

 仕事をしていたのだから、仕事仲間もいるだろう。

 結婚はすでにしているので女は考えない方がいい。

 爵位は要らないと聞いている。


 あと、必要な物は?

 これから必要になる物は?

 用意できそうな物は?


 そう考えたところで出せそうな物を頭の中でリストアップする。



「金銭報酬とは別に、土地と家などを提供します。

 家具などについては後程ご相談を。家の維持に使う、人員の手配もします。ご家族も含め、一生分の面倒を見るとお約束しましょう。

 私の言葉だけで信用できないようでしたら、そこにいるジャンにも、私が言った言葉を守るよう後ろ盾になってもらいます。

 それでどうでしょうか?」

「……まぁ、今はそのあたりが妥当かな」



 イルムが結婚しているのなら、いずれは子供を作り育てていくだろう。

 シャリーはそれが出来る環境を作ると明言した。

 たとえイルムが死んでも残った家族の面倒を見ると保証をする。この場にいたジャンも使い、その保証に信ぴょう性を持たせる。


 いずれはどこかに居を構えるのなら、戦争はどうしても切って離せない。

 ならばその中で少しでもマシな環境があれば、それを守ろうと命がけになれる、はず。



 シャリーの言葉に、イルムは正解だと苦笑いで返した。

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