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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
2章 傭兵団の始まり(王国歴142~145年)
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幕間:クリフとウノ

 イルムの妹、ウノ。

 イルムの友人だった男、クリフ。


 二人は夫婦となり、元いた村から少し離れた、別の村に移住をしようとした。

 が、その願いは叶わない。



「悪いな。この村に解体職人はもう要らねぇんだ。余所、当たってくれや」

「そうですか。御時間を取っていただき、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 端的に言えば、どこも仕事が無かったのである。

 クリフは肉屋、解体職人としてこれまで研鑽を積んできた。その腕はどこでも通用するものであるが、他のどこにも、同じぐらいの腕前の職人がいた。

 しかも、その現地の職人は次世代をちゃんと育成しており、クリフの入る空きがない。


 更に悪いことに、クリフは肉屋の仕事に特化しすぎていた。

 これはイルムが村にいた影響で、常に肉屋の仕事があったからでもある。普通の村の狩人は、そう毎日、獲物を持ち込まない。持ち込めない。イルムが毎日のように獲物を狩れたのが異常なのだ。

 その為、余技が全く無いクリフは他の村での就職に苦労する。イルムが狩りをしだす前までは多少の心得があったが、今ではその技もさび付いている。

 他の仕事ならいくつか空きがあったのだが……残念ながら、新しい仕事をほぼゼロから再スタートしては食っていけないのだ。



「すまん、ウノ。またお前には苦労をかける」

「いいのよ。夫婦って、そうやって支え合うものでしょう?」


 二人が飢えないのは、妹のためにとイルムが渡したいくつかの小物があったからだ。これを売り払って得たお金から旅費を出し、なんとか食いつないでいる。

 裏切られ、クリフに思うところがあったイルムだが、妹のウノが不幸になるのを見過ごすほど心が狭いわけではない。妹の幸せを願い、お金に困らないように配慮するだけのゆとりがあった。そのお金で妹が何をしようがイルムは気が付かないふりをする。

 クリフはそんな風にウノに頼り続けることを、重荷に感じだしていく。



「やはり、今からでもイルムのところに行った方が良いんじゃないか? 悪いが、俺ではイルムのように君を守り切れない」


 そうやって村を流れ続ければ、心が徐々に摩耗していく。

 疲れ切ったクリフはそうやって愚痴をこぼすようになっていった。


 仕事は何も出来ない。ただ年下の少女に養ってもらっているだけ。

 持っている技も振るう機会が無くなりさび付いていく。これから先を思うと、気分がどんどん滅入っていく。

 かつて「出来る男」「みんなの兄貴」と呼ばれたクリフだが、心が病んで落ち込む姿にその面影は残っていない。小さな世界から追い出され、世界の広さに上を見上げることしかできない、歩みを止めた男がそこにいた。


 ウノはそんなクリフを見ても揺らがない。


「大丈夫」


 あえて、何が大丈夫かは言わない。


「私は貴方の隣にいると決めたの。だから大丈夫。

 今は不安に思うかもしれない。だけど、私を信じて。きっと、何とかなるから」


 何の具体的な話もしていない。

 だけど大丈夫だと繰り返し、クリフに微笑みかけるウノ。


 ウノ自身も、将来に不安が無いわけではない。

 ただ、それでもクリフについて行くと自分で決めたから。だからウノは胸を張って、クリフを選んだことに後悔をしない。

 二人で歩き続ければ、きっと人並みの幸せを得られると信仰(・・)している。


 そして、そんなウノに励まされ、クリフは危うい道に落ちること無く、なんとかまっとうな道を歩き出す。





 二人はそのままいくつもの村を流れるのだが、いくつかの幸運に偶然が重なり、サーベリオン公爵領からすぐ近くの村に移住することになる。

 クリフは運良く肉屋の仕事を見付け、ウノは村の女衆に混じり機織り仕事をするようになった。

 彼らは生活は苦しくとも、ごく普通の村人として、新たな生活を得たのだ。


 それは軍靴の足音が聞こえ出す、王国歴147年の春のことであった。

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