幕間:アブーハ・サーベリオン同盟
そろそろ齢五〇を数える大男、アブーハ公爵は迷っていた。
最近になって、ミルグランデ公爵とサーベリオン公爵が争いだしたからだ。
「ここはサーベリオン公爵が軍勢を整える前に、一気呵成に攻め立てるべきです!!
あのジャック卿が倒れたのですぞ! まさに千載一遇の好機! この機を逃しては、次は何時、攻め時になるか分かりません!
それにミルグランデ公爵もサーベリオン公爵と争った後。すぐに軍勢を動かせる状況にはありません。
ですから! ここで動かねば何時、動くというのです!!」
「それよりも攻め入るべきはミルグランデ公爵の方ではありませんかな?
元々、我らがサーベリオン公爵を下す必要は無いのです。サーベリオン公爵とはこれを機に恩を売り、同盟を結ぶべきでしょう。弱り目の今なら、我らとの同盟を受け入れるでしょう。
そしてその同盟をもってあの憎きミルグランデを下し、王国に正義を示すのです。
目的を間違えてはいけませんな。倒すべきはミルグランデなのです」
アブーハ公爵は残る二公爵と争っているが、一番に倒すべき政敵はミルグランデ公爵の方である。
よって、普通に考えれば二人目の意見が正しい。
だが、ミルグランデ公爵側は、軍にあまり大きな被害を出していない。軍に被害が大きかったのはサーベリオン公爵だ。
攻めやすいのは、どう考えてもサーベリオン公爵の方である。
特にサーベリオン公爵領は農産地であり食糧庫と言えるため、その領地を切り取りできればかなり美味しい。それは間違いない。
ここで問題になるのが将来の話で、例えばアブーハ公爵がミルグランデ公爵の領地を大幅に切り取ったとする。
そうなると、食料不足のリスクが今よりも大きくなりかねない。食糧豊富なサーベリオン公爵への依存度が増す。
逆に考えれば、サーベリオン公爵と共存する意思があるなら、それも問題ない。
相手に依存する部分があるという事は、互いが対等であるという事だ。
それに、自領が広がればその分だけ輸出を増やし、食糧を買うための財貨を得ているだろう。一方的な依存ではなく、双依存の状態まで持って行けるはずだ。むしろ自分たちの領地が大きく広がるなら、時間の経過とともに差をつける事が可能になる。
リスク管理は大事だが、それだけで争いの輪を広げる事は得策ではない。
「サーベリオン公爵に同盟を持ち掛ける。
まずはミルグランデを下す。その後は、我が子らが見定める地平だ。我らは怨敵、ミルグランデを下す事にのみ、全力を尽くすべきだ」
熟考したアブーハ公爵は、戦場を広げ過ぎぬようにと、サーベリオン公爵との同盟を進めることを決める。
もちろん、断られれば、というオプションを付けて。
相手に戦争準備のための時間を与えかねないが、おそらく断ることは無いだろうと公爵は考えている。相手もこれ以上の戦争を望んでいないだろうし、協力の範囲と期限を区切れば確実に乗ってくるはずだ。
サーベリオン公爵とは小競り合いを続けてきた相手ではあるが、今のところ、本格的な争いはしていない。こちらに付けと脅すようなやり方をしていても、引き際は心得ている。
逆に伯爵領ひとつを切り取ったミルグランデ公爵は、これでサーベリオン公爵と本格的な戦争をせねばならない。ここまでやっては、停戦交渉にも苦労するだろう。
それを考えると、やはりサーベリオン公爵と争い戦線を拡大することは得策でないと、落しどころが決まらないとアブーハ公爵は自分の考えに満足する。
公爵の決定に不満な顔を見せる物も少しいたが、大勢は公爵と考えを同じくする。
アブーハ公爵とサーベリオン公爵の同盟は、こうして話が進むのであった。
王国歴145年。
アブーハ公爵とサーベリオン公爵は10年間の休戦協定を結び、現在の国境線と干渉地についての暫定維持を決める。
軍事同盟にこそ至らぬものの、ミルグランデ公爵の軍事情報に関してはいくつか共有されることになり、ミルグランデ公爵は大いに困る事となる。
同146年。
戦線が一方向に固定化されたことでサーベリオン公爵、アブーハ公爵はミルグランデ公爵の領地へと軍を進める事となるのであった。




