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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
2章 傭兵団の始まり(王国歴142~145年)
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正騎士ジャン=ジャック=バルトフリート

 ジャン=ジャック=バルトフリート。


 サーベリオン公爵直属の騎士にして最強の盾――の息子の一人。

 公爵の足を引っ張りたい内部勢力の手に捕まりそうになっている彼は、法と正義の人である。ただし精神論に偏った熱血系ではなくわりと冷静な態度を取ることが多い。

 ゲームでは精神論を振りかざす主人公のストッパーであり、良心でもある。


 あるイベントでは、悪徳貴族にとらわれた娘を助ける際に、武力で正面突破をしようとする主人公を押しとどめ、悪徳貴族を正式なルートで罷免するために動くなどといった活躍を見せる。

 要は問題の根っこを正しく把握する能力を持ち、その為に必要な手順を考える頭があり、実行に移せる行動力があるわけだ。

 主人公とは何度も衝突するが、その度に実力を見せつけ信頼を得て、傭兵団の参謀役に収まった。


 イルムにしてみれば出来ればどころか絶対に仲間にしたい男である。


 なお、数少ない欠点として、魔法系統の能力がかなり低めというのがある。

 別に一人ぐらい魔法が使えなくとも困らないゲームだったが、魔法に対する抵抗能力の無さに頭を抱えるプレイヤーは多かった。





「さっきの騎士様を助けよう。追われる理由は知らないが、追ってる連中がいかにもなゴロツキだからね。助けてコネをゲット、だな」

「いいの? 厄介事に巻き込まれない?」

「貴族のもめ事に首を突っ込むの? 危ないよ、きっと」


 「助けよう」と主張したイルムに、嫁二人は明らかに嫌そうな顔をした。

 理由は簡単で、貴族関係のトラブルに巻き込まれた場合、身を守りきれるか分からないからだ。安全に生きるため、イルムを止めようと主張する。

 それに、助けたは良いが、ちゃんとお礼をしてもらえるか分からない。契約をしていれば何らかの報酬はあるだろうが、「勝手に助けたのだから礼は言わない」となると、リスクだけでリターンが無いこともありうる。

 二人の主張の方が、普段なら正しい。


 しかし、とイルムは口を開く。


「アレを放っておいたら別のトラブルが発生することもあるし、報酬を取りっぱぐれることにはならないさ」


 自信を持って宣言する。


「かつての親父と同じ騎士様で、小物に見知った家紋を付けてたからな。なんとかなるよ」


 知識チートを利用し、今のイルムなら知りもしないことを平然と言ってのけた。





 ジャンは焦っていた。

 ダーレンに来たのは父の命令で、小隊を率いてミルグランデ領との間を巡回する予定であった。

 件の小隊は現地の者を使うという話で、ダーレンの領主が用意することになっていた。自身の従者はさすがに自分で用意したが、兵隊は他家の者。戦場ではよくある話なので、実戦に投入される前の訓練の一環と思い、何の疑問も持たなかった。


 ダーレンの領主はバルトフリートの現当主であるジャックと同じ派閥のはずであった。

 が、ここに来て別の派閥に乗り換えていたことを明かし、ジャンを捕らえジャックへの交渉材料にしようとした。裏切り者が信用を得るために対価を得ようとしたわけだ。


 従者はすでに捕らえられている。

 初めて来た町というわけではないが、敵の領地であるため味方はいない。

 さすがに事を荒立てないため街中で騎士を動かしはしなかったが、敵地ゆえに敵は多い。八方塞がりだ。


 一人二人は倒せるだろう。五人十人でも何とでもなる。

 しかし時間をかければそれ以上の人数を動かされ、最後に手詰まりだ。逃げるしかない。


 だが、何処に逃げようというのだろう?

 水や食糧も何も持たず街を出ても他の街まで逃げ切れる可能性は低い。

 下手に頭が良い分、ジャンは己の末路が正しく見えていた。それでも逃げるのは、少しでも相手()の思い通りにしないためだ。わずかでも逃げ続ければ希望があると、己に言い聞かせているに過ぎない。



「こっちだ!」

「仲間を呼べ!」

「囲むぞ!」


 ジャンを探す連中の声が聞こえる。

 直接捕まえに来てくれればまだ倒すという選択肢も採れたが、わざと距離を保ち声を出し、仲間を集めてから動こうとするぐらいには狡猾だ。仲間を集める声はジャンの心を折るためでもある。

 追手は物理的にだけでなく、精神的にもジャンを追い詰めにかかっていた。



 そんな時だ。

 本当に、わずかな希望というのが見えたのは。


「悪いがそこまでだ。白昼堂々人さらいとか、何考えてやがる」


 見知らぬ男(イルム)が追手を殴り飛ばした。

 突然現れた男に別の追手が襲いかかるが、それを物ともせずイルムは拳一つでなぎ払う。


 一瞬、ジャンは敵の欺瞞工作かとイルムを疑う。

 しかしイルムが本当に味方であることに賭けた方が助かる可能性が高いと、直ぐに疑念を振り払った。殴り倒されたゴロツキは控えめに見ようが重傷で、演技ではない。ゴロツキなど捨て駒にする事は簡単だが、一人二人ではなく数十人規模で使い捨てにする可能性はあまりない。

 何より、このまま逃げても手詰まりなのだから、どこかで賭に出ないといけなかったのだ。ジャンはイルムに賭ける事にした。



「そこの御仁! すまぬが、助太刀を頼む!」

「ああ、引き受けた!」


 こうしてイルムは後の英雄(・・・・)、ジャンと手を組むことになる。

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