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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
2章 傭兵団の始まり(王国歴142~145年)
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入団希望者問題

 イルムの活動は徐々に周囲に認知され、一定の立場を作った。

 しかしそれに伴い、新しい問題が浮上する。

 知名度が上がったことで、新規団員希望者が大勢やってくるようになったのだ。





「実力不足。残念だけど、うちでは要らない」

「待ってくれ! もう一度チャンスをくれ!!」

「いいけど……結果は変わらないよ」


 イルムたちがいくつもの盗賊団を潰しているというのは、徐々に周囲の人間にも伝わっていく。

 そうなると仕事にあぶれた連中がイルムの所にやってきて「雇ってくれ」と言い出すのだ。


 イルムはほぼ単独で盗賊団を殲滅する実力があり、嫁二人もまた、1対1なら何とかなるといったレベルの戦闘能力を有している。

 そして戦力的に足りているという事は、新人獲得に向けて動く意欲を削いでいた。

 これが一般的な企業などであれば次世代の育成を始めておくことも無駄ではないのだが、傭兵団をいつまでやるか未定で、いずれはどこかで土地を拓いてそこで老後を過ごそうなどと考えているイルムには関係のない世界である。


 よって、そういったあぶれ者たちはイルムの試験、拳を使った簡単なお話し合いにて泣きながら帰る事になる。物理的に。

 最初はイルムの実力を見誤り――若いイルムは従者か何かで他に主力がいると考えてしまう――舐めた態度をとり、イルムに勝てれば団に入れると言われて、あっさり負けるのだ。


 イルムにしてみれば、信用できず腕も悪い奴を仲間に引き込みたくはないのだ。

 信用はともかく、せめて腕がある程度無いと、仲間にする価値を見出せない。



「でも、雑用は欲しい?」

「戦えなくても、他の仕事を任せたいよね」

「それは分かるけどな。でも、そういった仕事をやらせて下さいっていう奴は来てないからなぁ」

「「募集してないから、来るはずも無いよ?」」

「まぁね」


 ただし、イルムたちは任せられる仕事が全くないわけではない。

 町で食料を調達したり、盗賊団の噂話を仕入れてきたり、使っている道具類のメンテナンスをしたり、旅に同行して料理や野営の準備をしたりとか。イルムたちの負担を減らす役割なら、いくらでもある。荷物持ちと言うのは必要ないが。

 そうして減らした負担で仕事に出る回数を増やすことも可能である。


 ただし。


「信用できる新人って、普通はいないからね。

 俺たちが信用できる、人材を紹介してくれる人自体いないから」


 結局はそこに行きつく。



 どんな仕事でもそうだが、初対面で信用できる人などいない。

 だからどこかの団体、商人・職人ギルドや貴族などの名誉ある連中との間にコネを作り、彼らから紹介してもらうのが普通のやり方だ。

 紹介者が信用の担保になるのだ。


 当たり前だが、紹介する側が紹介される側を信用する必要があるのも常識だ。される側がする側を信用するだけではいけない。相互の結び付きが重要になる。



 イルムたちにある信用とは、戦力への評価ぐらいだ。人間的な信用ではない。

 そして戦力だけが信用されているなら、戦力を売り込みに来る人間が多いのもしょうがないわけで。


「頼んます! 俺を雇ってください!」

「俺に勝てたらね」


 仕事が無い奴がイルムの所に来る。

 大体が兵役上がりのおっさんか、成人前の子供である。

 そしてどちらも信用できない。


 買い物のために金を渡せばそのまま逃げそうな、頭の中身の詰まっていない人間の方が多いのがこの国の貧民層だ。

 長期間コツコツ働いてチマチマ稼ぐ方がよっぽどいい生活ができるのに、小金の誘惑に負ける人間の方が普通と言う、目の前しか見えない人間ばかり。

 彼らは1年先のことを考えられず、下手をすると明日の事すら考えないという有様だ。彼らには分からないのだ、金を盗んだ者の末路が。


 ならばとダーレンでも一度、子供を教育して使えるようにしようとしたことがあったが、教育が始まって間もなく金を持って逃げ出すという事があったために、すでに他人に期待していない。

 奴隷や孤児に優しくすれば恩を感じて言う事を聞くようになるというのは、この世界では物語の中にすらなかったわけだ。



 就職希望者を相手にしないのもまとわりつかれて面倒であるため、ボコボコにして追い返し、それを周囲に広めている。

 来ても無駄だと分からせるためだ。

 そのうち噂話になり、周囲に広まるだろうから。イルムはそれを狙っている。


 イルムの苦労は、傭兵団を名乗り続けている間ずっと続くことになる。

 馬鹿な挑戦者と言うのは、他の連中がどれだけ失敗しようが自分は大丈夫だという、謎の自信を持っているからだ。


 結局、頻度は減ってもよりお馬鹿な挑戦者の相手でイルムは時間をとられるのだった。

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