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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
2章 傭兵団の始まり(王国歴142~145年)
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初仕事の、事後

 酒場などに行けば、客である行商人が食事をしている。

 そこでは酒の肴に地方の情報交換が行われ、「何が売れる」「どこが危ない」といった話をしている事が多い。

 イルムはそこで丁稚のふりをして、盗賊の情報を抜き取っていた。



 ダーレンの警備隊やその他兵隊が盗賊をどうにかすればいいという考えは理想論だ。

 彼らは自分の守備範囲をどうにかするのに精いっぱいで、残念ながらそこまでの余力が無い。

 他にも盗賊団はあり、多方へ同時展開できるだけの人員がいないのだ。どうしても倒す順番を決めて動かねばならない。順番待ちが発生するのだ。


 傭兵団はそういった兵隊たちの請け負いきれない盗賊団の退治や村の警護、または大規模戦闘が始まった時の補充人員として使われる。もしくは捨て駒か。

 イルムが目指すのは、盗賊団退治を主業務とする傭兵団である。



 ただ、イルムが盗賊団を勝手に倒した場合、困るのは報酬である。


 領主の手が回らない盗賊団であれば、賞金がかけられ、退治すれば報奨金が手に入る――とはならない。

 困ったことに領主の側の資金が足りない、と言った話でもない。

 居もしない盗賊団の退治依頼などの詐欺が横行してしまうので、報奨金が出るとしても現場負担が基本になる。街の領主が支払いを負担するのは、自分の兵隊が動いた時ぐらいだ。

 そして、兵隊が動くのは順番待ちである。

 完全な悪循環だ。


 イルムが盗賊団を倒して収入を得ようとした場合、先に村長などから依頼を受ける必要があり、それを嫌がるなら盗賊団から得たものを奪う事になる。

 ただ、盗賊の略奪物を懐に入れる場合、これも事前に申し出ておかねばイルムたちが盗賊団の一味と見做されることになる。そして事前に申し出ると、盗賊に奪われたものの一部を提出することを求められたりする。

 この辺り、非常にややこしい。

 「盗賊がいなくなるのだから、一度奪われたものを諦めるぐらい~~」というのは、盗賊との癒着で面倒な問題が出るのだ。高価な物を奪わせ、奪った者を殺せば自分の物になる、なんてやり方がまかり通ってしまう。

 事前申請と強奪された者の一部無償供出も合法的に人の物を奪うのを防ぐために、必須行動となる。

 下手をすると無償労働となりかねない。



 この辺りの常識は、イルムも村で聞いていたのでちゃんと知っていた。

 ダーレンで話を通してある。


 が、行った先の村長は、そんな話を事後に聞かされることになるのだ。





「そんな話は聞いとらん。盗賊団の持ち物は、こちらで引き取る」

「こっちも子供の使いじゃないんだ。断らせてもらう」

「ふざけるな、この盗人め!!」

「どっちがだよ! お前らの決断が遅すぎるだけだろうが! このノロマ!!」


 盗賊団の討伐自体は簡単だ。

 イルムがちょっと暴れるだけでよかった。

 問題が起きるのは、討伐後である。


 二重契約という訳ではないが、被害の出ている村でも、盗賊団討伐の話は出ていた。

 彼らにも生活があるし、奪われたものを取り返したいという思いがある。領主が兵を出すのを待てと言うなら、自分たちでどうにかしようというのは不思議な話ではない。

 自警団を攻撃に回すぐらいの知恵はある。


 ただ、その前にイルムが盗賊を討伐し、ダーレンで指定された返却物が村長に渡された。

 そういった話だっただけだ。



 村長にしてみれば多少の人的被害はあるだろうが、盗賊から自力で物を奪い返せば奪われた物のほとんどが返ってくるところを、よそ者に掻っ攫われるのだ。

 到底納得できる話ではない。


 イルムにしてみれば、傭兵が来た時に最低でもこれだけは返してくれという話をダーレンに持って行ったのだから、それで納得しろと言う話。

 イルムが全部返せと言われているのは、イルムが村長に舐められているからだ。

 この村長は、成人したばかりの子供(イルム)を怒鳴りつけ、あわよくば手に入る物を増やそうという愚かな努力をしているわけだ。

 イルムが納得する訳が無い。



 この場合、理はイルムにある。

 結局のところ、村長らは何もできていないのだから、それが道理というものだ。


 だが村の中で王様気分の村長が、傭兵ではあるが子供一人に退くと外聞が悪いためというのが、無駄に揉めた実情だ。

 何らかの交渉実績が欲しいのだ、村長は。


 誰もが目に見える成果を求めている。

 それができなければ、人が付いてこない。



「もういい。お前ら相手に話をしても無意味だ。もう知らん」

「待て! 逃げるのか、この卑怯者!!」


 話の持って行き方次第では、イルムが譲歩した可能性もあっただろう。

 しかし、頭ごなしに怒鳴りつけられては、イルムも簡単には退かない。退けない。生まれた村の村長を思い出すといった感情論もある。

 もしくは、歴戦の傭兵であれば上手い妥協点を提示できたのかもしれない。が、イルムはそこまで経験値の高い傭兵ではなかった。



 最終的にイルムは村長との話し合いを蹴り、少々の悪評と引き換えに金銭報酬を確保した。

 何の成果もあげていない村長は、盗賊の脅威がなくなったものの村人から白い目で見られ、評判を大きく落とす。


 誰もが微妙に利益と損を出す結果となった。

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