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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
2章 傭兵団の始まり(王国歴142~145年)
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プロローグ

 イルムたちはサーベリオン公爵領の中でもそこそこ大きな町までやって来た。


 道中は狩りをして路銀を稼ぎながらの旅であったが、旅の仲間は3人だけ、水は魔法を使って用意するといった方法をとったので移動ペースは、徒歩にしては早い。

 人数が少なければ小回りが利くし、一番荷物になる水を大量に持ち運ぶことをしなくていいなら荷物が少なくなる。

 そのため、盗賊などに襲われるといった事も無かった。


 ただし。


「まさか、宿屋で襲われるとは思ってなかったです」

「村ぐるみで追いはぎとか、サーベリオン領は治安が悪いです」


 盗賊は出なくても、訳ありそうな旅人の身ぐるみを剥ごうとする、不心得者たちはいたようだ。


 サーベリオン領に入ってすぐの村で、食事に毒を混ぜられ娘2人が身動きできなくなったところを村人に襲われたのだ。

 幸い、イルムは≪毒耐性≫のスキルを育てていたので大事には至らなかったが。


 大して戦い慣れていない宿の主人をボコボコにし、その後、イルムたちの方を犯罪者に仕立て上げようとした村長を張り倒し、小銭と食糧を巻き上げて放免したのは数日前の出来事である。

 なお、こういった事をしても逆恨みして官憲に訴えられるという事はない。

 逆説的に、だからこそ村の連中も旅人を襲うというほど、法による拘束力は弱い。

 小さな村の出来事では、わざわざ領内全域に指名手配などと、官憲がそこまでする手間をかける理由が無い。イルムが持ち出した金銭と食糧も致命的な被害にならないように気を付けていたことも、指名手配されない理由だ。

 精々、信憑性の低い噂話が広まる可能性があるぐらいだ。





 3人がやって来たのは、サーベリオン領の一地方都市『ダーレン』。

 ミルグランデ領と近いのでやや物々しい雰囲気ではあるが、それぐらいしか特色のない、どこにでもある小さな街だ。


 サーベリオン領は国内でも食糧生産力に一番余裕があるため、他の二公爵相手でも食糧関連の取引をしている。

 豊富な水源を利用した水田での稲作に、裏作の冬小麦。それらを売ることで攻めにくくされるという外交努力で、これまでは戦果を免れてきた。


 しかし近年はどちらにも食糧を売るという日和見を止め、自分たちの陣営に付けという圧力が強まっている。

 武力を使った交渉までされているので、ダーレンの雰囲気はあまり良くない。

 特にイルムたちのようなよそ者への態度は最悪であった。



「うちの宿はもう満員だよ。他所も似たようなものさ。諦めな」

「悪いが、うちは固定客以外を泊める気は無い。行商人専用なんだ。他をあたりな」


 イルムたちは宿をとろうとするが、どこも「一見(いちげん)さんはお断りだ」と、初めて見る顔のイルムたちを泊めようとはしない。

 これはしょうがない部分もあり、普段は馴染みの客を泊めていればいいだけの宿屋ばかりで、新規の顧客を探すような宿は早晩に潰れてしまうという環境だったからだ。

 そもそも宿屋はギルドを作っており、客の奪い合いをしないように立ち回っているため、食事の仕入れなども無駄が無いように徹底的に管理されているような状態だ。よそ者を受け入れるキャパシティが無かった。


 これは国全体が食糧不足のために、サーベリオン領からの食糧輸出が領内の必要量を削ってまで行われているためでもあり、食べ物の自由取引が制限されているからであった。

 そうなると「よそ者に食わせる飯は(物理的な意味で)無い」となる。

 誰だって、身内が一番大事なのだ。



「こりゃあ、見通しが甘かったな。街中だけど、今日は野宿だ。

 寝ている間に襲われないような場所を探さないとな」

「「残念です」」


 イルムたちは当面の活動をダーレンで行うつもりであったが、ここまで状況が厳しいとは思っていなかった。

 ゲームでは食糧不足はともかく宿関連でそういった描写も特になかったために、これはイルムも完全に想定外である。と言うか、一般的なRPGで「金などの都合で馬小屋に泊まる」事はあっても、「宿に泊まれない」というシチュエーションはまず無いのだが。


 それをどうにかするために、まずはコネ作りと言っても、「冒険者」などと言う職業やギルドも無いため、3人にはすでに手詰まり感があった。

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