エピローグ
村から人が去って行く。多くの人死にが出たので村が機能しないからだ。
最小の集団生活が出来る人数は、大人が50人は必要だ。特に、林業で成り立っていた村の場合は材木の運搬で人手が要る。もう、どうにもならなかった。
今回の件の報告に関しては村長の仕事なので、彼に一任された。
イルムとしては、もう関係ないという立場でいる。
多少自分に都合の悪い話をされようが、もう関わることはないだろう。情報伝達がいい加減で遅い王国の中で何か言われようと、そこまで問題になりそうもないので気にするだけ無駄なのだ。
イルムは、付いてきてくれる二人と一緒に村を出た。
妹、ウノはクリフと一緒に近くの街を目指すらしい。
「イルムさん、本当に良かったの?」
「イルムさん、ウノは一緒に連れて行かないの?」
イルムと一緒に行くと決めたのは、ルーナとネリーの二人だけ。
本当にそれでいいのかと、二人はイルムに尋ねる。
「ああ、それでいい。今の俺と一緒にいたところで、何の意味も無いからな。だったら本人の意思を優先するさ」
イルムは、自信を無くしていた。
3年間も頑張ってきたというのに、それが全く役に立たなかったからだ。
ゲーム知識というのは、シナリオに限って言えばもう役に立たないと、イルムは諦めた。
ゲームと同じ展開であれば自身の知識をまだ有効活用できるが、日々の細かい、描写されていない部分を同じようにと再現することは出来そうもない。
それでも役に立ちそうな部分だけを上手く使うしかなかったのだ。
結局、ゲーム知識というのは使いにくい情報だったというだけの話。
シナリオの強制力など無いから、イルムが本来の主人公でない以上、シナリオに意味は無い。前提条件が違いすぎたのだ。
「じゃ、俺たちはサーベリオン公爵領を目指し、そこで傭兵団を結成する。
ルーナとネリーにも協力してもらうから、今のうちに覚悟を決めてくれ」
とは言え、何の指針もなく動くより、ゲームシナリオに沿って動く方が何かと都合がいい。
ゲームの主人公がそうであったように、イルムは他の公爵領で傭兵稼業を始める事にした。
イルムの場合、自身が一番得意なことを言えば「戦うこと」なのでそこまで不思議な話ではない。あと、生産的な活動に関しては地元の人間が優先されるので、縁故でもなければ就ける仕事が無いという現実もある。
そして、ゲームシナリオに沿うなら、傭兵団にウノの姿はない方が良い。
だからウノという不確定要素を抱え込むより、ゲームにより近くなるように別行動をしてもらおうと判断した。
「そばにいないと守れないのでは?」、そういう考え方もあるが、もとより力不足なら力を得る方を先にした方が良い。
村での一件も、イルムがもっと強く、周りに頼れる仲間を揃えていれば対処できた、かもしれない。
すでに起きてしまったことは変えられないが、そこから学ぶことは出来る。
自身の強化と、仲間作りに傭兵団は悪くない選択肢だ。合法的な武装集団など、それぐらいしかない。
あとはクリフを信用できるかどうかだが、それはイルムが考える事ではない。ウノ本人の考えでいいだろう。
イルムの方が年上で成人もしているが、イルムはウノを頭ごなしに押さえつける真似をしたくなかった。
ウノが信じたいと言うならそれでいい。
「じゃあ、行こうか」
「「はい」」
話し合いと準備が終わり、イルム達も村を出る。
イルムが色々とやっていたので、彼らが最後だ。クリフトウノも、もう先に村を出ている。
イルムは村から出てしばらくすると、村の方へと振り返る。
父、バルバスの墓のある方へ視線を向けた。
すでに見えなくなってしまったその墓は、遺体を埋めて小さな石を目印に置いただけの簡素なもの。
イルムはいつか墓参りに来ようと、胸の内に誓う。
あまり仲の良くなかった父ではあるが、それでも世界にたった一人の父だ。ロクに親孝行していない不良息子でも、それぐらいはしたいと思う。というか、もう、それぐらいしか出来ない。
「イルムさん?」
「なんでもない。それよりも、飯の確保を頑張らないとな」
「足りない?」
「ああ。売れるぐらいは欲しいよ」
足を止めたイルムに、二人の同行者が声をかける。
イルムはその声に応え、感傷を振り切り前を向く。
南方の地は、まだ遠い。