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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
9章 英雄とは死して完成する
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その死の価値は⑧

「バラしたのか?」

「うん、言っちゃったよ。兄さん」


 アレスが連れてきたウノ。

 ウノの姿を見たイルムは、自分たちが異父兄妹である事を知られたなと理解した。


 ウノは、公爵にイルムが兄であると教えたのだ。


 そしてこれが、公爵がイルムを危険視するきっかけとなっていた。



「何がしたい?

 何の為に動いているんだ?」

「それはもちろん、王国の存続の為ですよ、イルムさん」


 ここからは公爵からアレスに話す相手が替わる。

 イルムはアレスを高く評価している事もあり、気を引き締める。

 元は公爵への評価も高かったのだが、心労から心を少し病んでいた彼は、イルムの中で評価を落としていた。


「まず、確認させてください。

 イルムさんは、ウノ様の兄上なのですね?」

「ああ。王族の血が入っていないから、ただの平民だけどな」

「しかし、王族専用魔法を教えたのは、貴方だと」

「父にそういうものがあると、概要だけは聞いていたからな」

「本当に、それだけですか?」

「ああ。知識として知ってはいたけど、実際は手探りだったぞ。なぁ?」



 公爵はウノが王族を名乗りだした時から、一つの疑問を持っていた。


 “誰がウノに王族魔法を教えたのか?”


 王族魔法が王族の証明になる事を含め、王族魔法に関する知識は広まっていない。

 イルムの父は王宮勤めの近衛騎士であったが、だからといって王族魔法に関する知識があるのはおかしい。異常だ。

 ならば誰が教えたのかという疑問は、ウノが「父からそういった事が出来るかもしれないと教わりました。あとは独学です」と主張され、真偽のほどを確かめられずにいた。


 教師役が分かったのは、イルムがいなくなってからだ。

 ウノはいなくなった(イルム)の扱いを少しでも良くしたいと思い、イルムとの関係を全て教えてしまったのだ。

 それはもちろん、王族魔法の事もである。



 王族魔法の隠匿は、実は、非常にデリケートな話だ。

 王族の落胤というのはかなりの数が存在し、血の流出は誰にも把握できないものなのだ。

 これを言い換えると、「平民にも王族を名乗れるものが多数存在する」となる。


 王族の大安売りだ。権威も何も無い。

 そうなってしまえば「王国の国王は王族から選ばれる」意味が無い。平民から適当に神輿を探せばいい事になる。

 逆に貴族は血糖を管理されている為、王族が出てくる可能性が低くなる。公爵家レベルならばともかく、その下の貴族血統は「平民以下」に成り下がる。


「話は理解できる。だが俺も無闇矢鱈と知識を広める気は無いぞ。

 これまで、俺が自分の意思で知識を広めてきたか? 俺の愛弟子なんて、片手の指で終わる。他はそっちが教えろといった相手だけじゃないか」


 イルムはアレスの説明に一定の理解を示すが、それでも自分が殺されてもいいとは考えないし、「自衛の為なら戦うぞ」と言う立場を崩さない。

 互いの信頼関係は完全に壊れているので言葉だけで信用されない事を理解しつつも、最低限の反論だけはちゃんとする。

 「言っても分からないだろう」は世間一般の常識では通じないのである。


「ええ。これまでの行動を見る限り、貴方に非は無い。こちらの要望も可能な範囲で聞いていただけますし、その能力の高さも素晴らしい。

 ですが」


 アレスは言葉を止め、イルムを正面から見る。


「能力と立場、出身や血統、血筋のアンバランスさが問題でした。

 貴方の能力だけを見れば、宮廷魔術師やそれに類する立場で重用されることこそ相応しい。

 しかし出身はミルグランデ領、王宮勤めの騎士の出で、しかも王族に反発し身分を失った家の子供です。そこまで重用する事は周りが許さないでしょう」


 家の格を理由に地位を確保する事は悪い事ではない。

 家の存続の為に人は頑張るのだし、親が子供に自分の地位などを残そうとする事は自然な感情で、それを利用する形で貴族という制度が生まれている。

 貴族の中には身分を理由に暴走するものが出るのは否定しないが、ごく希に現れる優秀な者に頼らない支配体制を作る事を考えれば、貴族制度は非常に優秀な政治体制なのである。


 そしてその制度を当てはめれば、イルムは末端に近い端役にしか成れない。

 アレスの言う、王宮務めの宮廷魔術師など成れるはずがない。

 宮廷魔術師は魔法の腕を要求されるのはもちろん、最低でも三代前まで王家に仕えた実績から信用される存在、貴族以外は成れないのだから。



 ここまでの説明は、「個人がどんなに努力しても、信用されるのは孫の世代」という事になる。


 そして普通の人間なら特に問題が出る事もない。教育を受ける機会がないので、才能を埋もれさせて終わるからだ。もしくは伸ばす機会に恵まれない。

 イルムの場合、軍に匹敵する戦力を持つ「信用できない存在」というのが問題だった。貴族として養子にするなど抜け道はあるが、それは本人が拒否している。だから一般的な貴族にしてみれば使い潰す以外にやりようがなかった、とも言える。

 貴族より活躍する平民など要らない。それが貴族の考えである。



 こう言われると、イルムは「王国中に魔法を広めて貴族の価値をゼロにしてやろうか」などと黒い事を考えてしまう。

 平民が力を持てば革命が起きて王制が打破されるだろうと、そんな妄想をする。


「結局は貴族優位の考えの押しつけじゃないか。ただ静かに暮らしていたいだけの人間を殺そうとする理由にならない」


 根本にあるのは不信の一言。


 貴族がイルムを殺そうとする理由は分かったが、それでも死んであげようとは思えなかった。

 だからイルムは自身の正当性を再確認して、徹底抗戦しようとする。


 そこでアレスは、一つの質問をした。


「ならば、どこまで殺してこの争いを収めますか?」

「こっちに刃向かおうなどと考えなくなるまで、だな」

「ですから、それはどこまで殺す事を言っていますか? 貴族全てを殺し、王族を殺し、民を死に至らしめて。どこまで殺すというのでしょう?」

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