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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
9章 英雄とは死して完成する
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その死の価値は②

 イルムの家は家族5人がいるため、ジャンは別の家、村長の所に泊まることになった。

 しかし夜中になると、ジャンはこっそりとイルムの家に侵入する。



「考えたくもない予測が当たるっていうのは、悲しい事だよね」

「やはり、想定済みだったか。油断の一つもしてもらえないんだな」

「当然。と、言うよりさ。わざわざ顔を見せて話をして。俺に対する警告のつもりだったんだろう?」

「……」

「沈黙は肯定と捉えさせてもらうよ。おかげさまで、村の周りにいた連中は全員始末できたし」


 イルムの家に不法侵入したジャンであったが、殺気などは出していなかった。

 殺気を隠していたのではなく、そもそもジャンには殺し合いをする気など無かったのだ。イルムの寝込みを襲い、暗殺するように言われていたが、成功すると思えない愚行に手を出す理由が無い。

 苛烈な手段とは、それで上手くいくならやっても構わないが、成功するイメージが無いときにやるべきではないのだ。悪行に失敗すれば、無駄に恨みを買うだけである。



 ジャンが敵でないと信じているイルムは、家の外にジャンを誘い、夜の散歩と洒落込む。


「それにしても。俺に挑むならもう少し戦力を整えるべきだと思うんだけどな」


 殺されそうになったはずのイルムであるが、送り込まれた戦力を思い出し、馬鹿らしいと呆れを見せた。


「仕方がない。今はどれだけ戦力があっても全く足りないんだ。あれでもかなり頑張った方だろう」

「なら、こんな事で浪費するより温存しておいた方が良いと思うんだけどなぁ」


 送り込まれた暗殺者は100人にも満たない。

 戦闘要員だけで見れば10人しかいない。

 

 イルムが強い事はすでに知れ渡っているただの事実であり、それを考えれば10倍以上の兵力を差し向けるぐらいが妥当である。

 正攻法で戦うなら、質を維持したうえで100倍は必要であっただろうが。


 だからイルムは、何でこんな無駄な事をするんだろうと、貴族の考えが理解できないでいた。

 殺したいというのは理解できるが、ただ戦力を浪費するのにどんな意味があるのだろうと。


「命を狙っているというメッセージだろうね。相手に不安を与え、疲労を狙う。よくある手口だ」

「カウンターで自分が殺されないと思っているのか? 贅沢で、リスキーだなぁ」


 ジャンは脅しであり、長期戦を見越しての手段というが、やはりイルムには理解しがたい。

 貴重と言える腕のいい部下を捨て駒にするなど、イルムにはできない行動だ。部下には腕に見合った仕事を与え、堅実に運用する方がイルムの性に合っている。

 そしてケンカを売ったことで自分が傷つくことを考えていないのかと、その浅はかさも馬鹿にする。


「……だれが刺客を送り込んだのか分からなければ大丈夫じゃないのか?」


 ただ、イルムのボヤキに対し、ジャンは何か背筋に寒いものを感じてしまった。

 自分たちは何か、勘違いをしているのではないかと。


「おいおい。なら、全員殺せばいいだけだろう?」


 だから。

 イルムはわざと、相手が恐れる最悪を口にしてみせた。



 その後の反応は劇的だ。

 ジャンはとっさにイルムから距離を取り、剣に手をかける。


「いや、何もこの場でジャンを手にかける気は無いぞ。

 ただ、サーベリオン公爵の派閥の貴族が襲ってきたことが分かっているなら、サーベリオン公爵の派閥に適当に被害を与える事は、ただの正当な報復だろうが」

「無関係な者に手を出す気か!?」

「無関係ではないだろう? お仲間のやったことの報復を受けるぐらい、当たり前じゃないか」


 イルムの言葉は本気ではない。

 ただ、そのように相手に伝われば多少のけん制になるとは考えている。

 なのにジャンが本気で言っているかのような反応をしたことに、イルムは少し落ち込んだ。


 ただ、落ち込みつつも脅しの言葉は続けて喋る。


「ああ。部下の命をゴミのように扱う貴族なら、仲間が殺されても気にもしないか。

 だとすれば、やっぱり貴族を全滅させるのが一番被害が少ない方法だな。

 人の命を軽んじるのなら、自身の命も巻き添えに吹き飛ばしてやろう」


 そうしてイルムは、魔王にふさわしい発言をした。

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