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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
9章 英雄とは死して完成する
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群雄割拠

 イルムがひとしきり暴れ終わった後のサーベリオン領はガタガタになった。

 ただでさえ独立勢力の台頭を許してしまった最中というのに、領内の貴族たちの粛清が行われ、立て直しに10年はかかるとまで言われている。


 さらに不幸は続く。

 攻め落とした伯爵領だが、そちらでも反乱を起こされ、奪った都市が独立してしまったのだ。


 アブーハ公爵の元に帰参するのが本道であるが、件の伯爵は“派閥から”独立の道を選んだ。

 アブーハ公爵にもサーベリオン公爵にもついていかないという決断だ。

 ダーレンのような、王国からの独立ではないが、これも三侯爵の勢力図に大きな亀裂をもたらした。



 元より、三侯爵のどこかに庇護を求めるのは、その方が利益があったからだ。あとは所属してしまったために抜け出せなかったか、他に逃げる術が無かっただけ。

 結局、主従の約束も領地の利益を考えての決断でしかない。

 アブーハ公爵の意地で戦地にされ、サーベリオン公爵に荒らされた後の領地を治める伯爵は、もう公爵の我が儘に付き合いたくないと考えたのだ。


 そうして一人の貴族が派閥から抜け出せば、他にも追従する者が出てくる。

 公爵家に従う価値は無し。

 この流れはミルグランデ公爵にすら影響を及ぼし、王国は完全に内乱状態に。

 誰が敵でだれが味方となるか分からない戦国時代を迎えることになる。





 そんな修羅の国と化したヴァルナス王国だが、そこに一つの噂が流れ込む。


“この国のどこかに魔王がいる”

“魔王がいる国は乱れる”

“魔王を討つ勇者は何処かにいないものか”


 イルムという名の、魔王がいるという噂話だ。

 国が乱れた理由を求めた者がたどり着く、どこかの誰かが意図的に流している終末論。


 その魔王の姿は「頭は三つ、腕は六本。背丈は3mを超える大男」と、ただの人間でしかないイルムとはかけ離れた姿であるという。

 ごく普通ではない村人となったイルムにしてみれば、どうでもいい与太話であった。





「イルム。グラス、作り終った」

「イルム。鉄の精製が終わった」

「よし。じゃあ、今日の仕事は終わりにしよう。あとは家事の時間だな」

「「はい」」


 イルム一家はミルグランデ公爵派のドブリチ子爵領にある、小さな村に居を移していた。

 ドブリチ子爵領はダーレンよりも更に先にあり、サーベリオン・アブーハのどちらの公爵領からも遠い場所にある。

 イルム一家がこの村を選んだのはそれが理由だ。


 この村はイルムたちが生まれ育った村にそこそこ近く、林業で成り立っている点など共通点が多い。

 そのため、子供たちはともかく、大人たち三人は村に懐かしさを感じていた。



 村での三人の仕事は、鉄とガラス関連だ。

 イルムが昔から作っていたガラス製品や鉄はどんな時でも売れる商品であり、村への貢献という点でも分かりやすい。

 少々目立つ行為であるが、そんな事よりも村に受け入れてもらう方を優先したのである。


「ムスカ、散歩に行くか?」

「あい!」


 二歳の頃になるとムスカも歩き回るのが楽しい様で、父親と一緒のお出かけは、幼子にとってかけがえのない時間だ。


「ユナはママと一緒ね」

「ぴっ!」


 一歳と少しのユナは散歩に出かけられるほどではない。

 立ち上がり歩くことはできるが、長時間の歩行には付いていけない。

 自然と、ネリーが相手をすることになる。


 残ったルーナが家族の食事を作る。

 三人の中ではルーナの作るご飯が一番おいしいのが、彼女が料理番になる大きな理由だ。



 三人の役割はよく入れ替わりはするものの、基本はこうだ。

 逃げ出してから半年は、特に何事もない時間が過ぎて行った。

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