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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
9章 英雄とは死して完成する
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魔王

 イルムが出て行った後の公都は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


 イルムが派手に暴れた事、その際に貴族街に多大な被害が出た事。

 なにより、それらが公爵の命令ではなく、一部の者が勝手に行った暴挙であることがその理由だ。


 成功していれば小言で済んだだろう独断専行は、失敗したがゆえにお家御取潰しという最大級の処罰が行われた。

 これにより公爵家1つ、伯爵家が3つも消えて、公爵領の貴族たちは穴埋めに奔走する羽目になる。

 人の異動というのは「はい、今日から頑張ってね」と言えば済むものではなく、周囲との調整を細かく行わねば上手くいかない。当面、サーベリオン領の混乱は収まらないだろう。


 また、イルムが抜けたというのも看過できない話だ。

 イルムは各地の戦場で戦い、勝利に貢献してきた男である。

 そのイルムが離反したという事は、イルムありきで考えられていた作戦のすべてが使えなくなったという事だ。

 今後の防衛計画はこれまでの計画を白紙に戻し、新しく作り直さねばならない。


 そして問題なのは、ここまで最高戦力として命令に従っていたイルムを、一方的に犯罪者に仕立て上げたという風評である。

 あれだけ貢献してきたのに、何の釈明もさせずに犯罪者として扱った。

 そうなれば「サーベリオン公爵のために頑張っても、なんの評価もされず、認めてもらえない」という噂が軍の中に蔓延する。士気の低下が著しく、先々の維持すらままならなくなるだろう。

 公爵は噂が立たぬよう、必死に情報操作をする羽目になった。





 こうなるとアブーハ公爵の側もサーベリオン領に何かがあったと気が付くし、しばらく戦って見せればイルムが戦場に出てこない事も知るようになる。

 停戦交渉はイルムが居れば多少不利でも飲まざるを得なかったが、イルムが居ないのであれば無茶を撥ね退ける事もできる。


 イルムが居る事から不安を抱き戦ってきたので、イルムが居なくなったなら戦わなくなることも可能。

 そうは言っても、いくつかの戦場で負けを繰り返し被害を出してきたのなら、逆に引くことが出来なくなるのも人情であった。

 すでに事態はイルムがどうこうという話ではなくなり、アブーハ公爵側は奪われた伯爵領を戦って取り戻すまで戦い続けることを決意している。むしろイルムが居なくなり、戦いが激化していくと予測される。

 戦いの連鎖は断ち切れないところまで太くなっていた。





 イルムが居なくなった事で変化があったのはミルグランデ公爵側も同じだ。

 なにせ、イルムが向かった先がそちらなのだから、今度はイルムがミルグランデに付くと思われている。

 そういった事実は無いのだが、それでも周囲から疑われることは避けられない。


 ただ、さすがにイルムを理由とした軍を向けられるほどの話ではない。

 元から戦っていたアブーハ公爵はともかく、サーベリオン公爵とは決定的な仲違いをするほどでもない。

 サーベリオン公爵側が混乱している事もあるが、それよりもダーレン周辺が独立領になってしまったので、そちらの対処に人が取られているからだ。

 直接行き来できる国境が減ってしまったので、軍を送りにくくなっているという事情もあった。





 たかが一個人のイルムであるが、その動静に公爵たちが注目する。

 本人の意思にかかわらず、そこにいるだけで発展と混沌を招く事、卓越した魔法の使い手である事から、イルムは『魔王』の名で呼ばれるようになっていく。

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