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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
9章 英雄とは死して完成する
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人質(無駄)

 “もしも貴族が手のひらを返したら”


 シャリーに忠告されてから、イルムはいくつかのパターンを想定していた。

 この状況は極めつけに悪いタイプのもので、最悪一歩手前と言ったところ。


 もちろん、最悪は妻子を人質に取られた後にこうなる事である。



 イルムはまず、目の前の貴族の背後を取る。


「な、なにを――」

「死ね、ではないな。半殺しだ」


 イルムは目の前の貴族の左腕を捻り上げると、もう右肩の付け根を握り潰す。

 さらに止めとして脇腹も殴った。


「あ、あがが……おうふっ!!」


 肩の骨を砕かれ貴族はあまりの痛みに叫ぶことすらできず、か細いうめき声をあげた。

 そして脇腹を殴られたことで意識を手放し、気絶する。


 イルムは貴族の人質を手に入れた。


「さて。この中に、貴族を死なせてでも俺と戦うって奴はどれぐらい居る?」

「そんな事、分かり切っている話だな!」


 イルムの挑発に、近くにいた兵士が貴族を無視して魔法を使おうとした。

 2人の距離は10mほどあり、更にその間には数名の兵士が壁役としている。魔法を使う隙が十分にあると、その男は考えていた。

 人質事イルムを殺そうとして。


「渦巻く怒りも何もかも。断ち切れ、炎よ。≪龍炎斬≫」


 逆に、壁ごとイルムに殺された。


 ゲームのシステム上、魔法よりも物理関連のスキルが非常に強い。

 詠唱のある魔法と違い、ノータイムで使えるスキルはコストも無いので、非常に使い勝手がいい。「バランスが~~」という声が大きく、後のシリーズではウェイトターンの増加などで対処されている。

 それでも発動までの待ちが大きい魔法より使いやすいといわれているのだが。


 ≪龍炎斬≫は格闘系のジョブで使えるようになるスキルで、闘気を炎の刃に変えて一直線にダメージを与える大技だ。

 高低差への対応力は悪いが、高低差の少ない屋内ステージでは多用される事が多い。

 威力については、格下であれば一掃可能なほど強い。このあたりは習得コストの高い大技の面目躍如である。


 大技を使った事で反動ダメージを受けたイルムだが、見た目にはほぼ変化が無い。

 そのため、魔法を使う素振りも見せず魔法のような何かをしたイルムを周囲はとても警戒し、攻めあぐねてしまう。



 相手は怯んだが、兵士の数が多く外に出るには敵中を突破しないといけない。

 壁を壊すという方法を取るフィクションがあるが、実際にそれをしようとすると、天井が崩れる可能性が高い。もしそうなれば自爆で自分が生き埋めになるかもしれないので、そのような手段をとることが出来ない。


 と、そこでイルムは別の考えを思いつく。

 自分以外が生き埋めになればいいのだと。


 先ほどの≪龍炎斬≫で自分から少し離れた壁に大きな傷がついている。ならばあと一押しをすれば、天井は崩れ落ちるだろう。


「この拳が届かぬモノは無い。穿て、鉄拳。≪波動拳≫」


 イルムはほんの数m先まで届く闘気の一撃を、兵士が大勢いる場所の近くにあった太い柱に向けて撃つ。

 柱が折れれば天井が落ちるのは当たり前の話だ。イルムのすぐそばにも瓦礫が落ちるが、兵士たちの頭上よりも量が少ないし、狙ってやった者と級に襲われたものとでは対応に差が出る。

 当然のように兵士は混乱し、イルムから目を逸らしてしまう。



 イルムはその隙を突き、気絶したままの貴族を担いで公爵の所を目指した(・・・・・・・・・)


 木っ端の貴族が役に立たないのなら本丸を落とすべきだと、イルムは思考を切り替えたのである。

 出来れば公爵の長男や孫、奥方を新しい人質にして、自身の安全を図るのがベターだと考える。公爵本人と何らかの交渉が必要で、その為の材料が無ければ話もできない。最悪、見ず知らずの誰かには悪いが、公都そのもの(・・・・・・)を人質にとる事も視野に入れねばならない。


 イルムの中には妻子の安否の確認を急ぎたい気持ちはあるが、確実に交渉を行うために、交渉材料を手に入れるために奔走する羽目になる。

 そしてテロリスト(暴力主義者)相手に交渉をしなければいけない現状に、心の中でため息をつくのだった。

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