3日前
イルムが暗殺者の件で軍団長の所に向かうと、今は人と会っているようなのでイルムと話すことが出来ないと門前払いを食らう。
突発的な話であったので、タイミングが合わない事もある。
可能な限り早く話を通しておきたかったのだが、イルムはそのように気持ちを切り替えた。
念のため、軍団長の補佐官には簡単に事情を説明しておく。
あとは他の主要な者、大隊長レベルの、軍団長より一つ下の位を持つ者たちに根回しをすることにした。
こういった暗殺騒動の時、伝言ゲームの様に途中で「イルムが暗殺者に襲われた」が「イルムが暗殺者となって襲い掛かった」に話がすり替えられないとも限らない。
早急に、影響力の強い者に直接話をしたかったからだ。
だと言うのに、イルムはそういったものと話すことが出来なかった。
ちょうど軍団長が話していたのがそういった立場のある人間で、全員出払っていたのである。
イルムがその事を知ったのは4人目の大隊長に会いに行った時の事で、その時にはもう暗殺されそうになってからずいぶん時間が経っている。
暗殺騒動はずいぶん大きな騒ぎになっていたが、結局軍団長たちは会議を優先してイルムと会おうとしなかった。
イルムは自分にとってかなり都合の悪い展開に、何か言葉にできない嫌な予感を覚えるが、何も打つ手が無かった。
イルムは結局何もできないからと、体を休める事にした。
そうして寝ずの番の時間になり、そのまま割り当てられた場所へと向かう。
イルムは巡回ではなく固定位置での見張り番で、アブーハ領を監視する方角を注視する役目だった。
こういった仕事の常として、三人一組で見張りが行われる。
「イルムさんイルムさん、さっきの騒ぎで怪我とかしませんでした? 大丈夫です?」
「怪我はしなかったよ。心配してくれてありがとう」
一緒にいる者のうち、一人がイルムに暗殺者騒動の件を心配して無事かどうかを聞く。
イルムは噂が間違った形で伝わっていない事に安堵し、心配してくれた仲間に感謝を告げた。
「それにしても、他に被害が出てなかったのは良かったね。暗殺者はあれだけだったみたいだし」
「そうですよね。でも、やっぱり、あいつらはイルムさんを直接狙ったんでしょうか?」
「言いたくないけど、そうだろうね。魔法使いの数を減らしたいって考えたんだろうね」
「イルムさんの魔法は凄いから。アブーハ領では頼りにしてます。本当に、よろしくお願いします」
その兵士は、元々はただの農民である。
戦場に出れば日常に比べ死ぬ可能性が非常に高いため、何か、誰かに縋って生き残りたいという気持ちがある。特に敵地に進軍するのであれば尚更だ。
この場合、イルムのような「強い人」に頑張ってもらい、少しでも自分が良きれるようにと思うのは普通の考えである。
その兵士は頭を下げ、イルムに「よろしくお願いします」と言った。
その日の夜は特に何事もなく寝ずの番を終え、多くの兵は自分の足で、イルムたち寝なかった者は荷車に揺られてアブーハ領へと歩を進めた。
なお、イルムが暗殺されそうになった話は軍団長にもちゃんと届き、イルムが狙われたのではないかという予測も含め、情報は共有された。
だから、イルムは油断した。
前日に会えず嫌な予感がしたことを、忘れていた。