表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
9章 英雄とは死して完成する
112/135

滅びへの道

 イルムは忙しいものの、戦の合間に公都に戻っている。

 いつもいるわけでもなく数日おきに公都に戻っているからこそ、イルムは公都の変化がよく分かる。


 食料を中心に物価が上昇している。

 そもそも売る物が無く店を閉めている。

 人通りが減り、公都全体から活気が消えつつある。


 徐々に生活が苦しくなっていく住人よりも戦争の大きな影響が見えていた。





「守勢に回ってはらちがあかない。一度アブーハ側の都市を落とす作戦が決行される。

 目標は伯爵領の都市だ。これに勝利すればこの長かった戦いも終わりを見せる。

 各自、覚悟を決めておけ。生きて勝利を手にするのだ!!」


 前線に戻ると、イルム達のいる軍でアブーハに侵攻を行うと全体に告げられた。

 イルムは停戦交渉がまとまらなかったことを理解する。そして、この侵攻作戦が停戦への布石であることも。


 この分なら、イルムが犠牲になる必要は無さそうだ。ただ、勝てばいい。

 それで未来の分岐点が変わるとイルムは思った。



 軍団長の訓辞が終わり、イルムも自由な時間が割り当てられる。

 この日は夜番で、それまで仮眠を取っておくようにと言われた。イルムはまだ若いが、それでも二十歳の頃と比べれば無理をしにくい。

 軍の中にいる知り合いは少ない。話をする相手もいないし、休息は大事だと、さっさと寝る事にした。



 イルムは油断していなかった。

 これは普段からそうなのだが、今はシャリーの助言もあってさらに用心をしているという事。

 敵からも味方からも襲われないように、テイムモンスターを使った監視を行わせていた。


 そんなイルムの監視網に、数人の不審者が引っ掛かった。


「おい、ここでいいのか?」

「ああ、間違いない」


 不審者たちは小声で、眠ったふりをしているイルムのテントに忍び込む。

 すでにイルムは起きているのだが、ただの勘違いで入ってきた連中なのか襲撃者なのか。その見極めの為に相手を騙すことにしていた。

 そして結果はクロである。

 彼らは毒を塗られた短剣を手にすると、イルムの首筋目掛けて振り下ろした。


 イルムは襲撃者が短剣を構えた所で体を動かし、短剣を避ける。


「気が付かれた!」

「押さえつけろ!」


 襲撃者は小声で叫ぶという器用な事をしながら、イルムをどうにかしようと目論む。

 が、力の差は歴然であった。


「遅い」

「!?」

「ぐ、ぐぁあぁっ!!」


 イルムが襲撃者二人のうち、片方の首筋を全力で殴る。

 本来狙うのが難しい首であるが、当たればその効果は覿面である。首の骨が折れ、殴られた男が即死した。

 続けざまに、イルムはもう一人の腕をつかみ、握りつぶした。

 腕を握りつぶされた男の絶叫が周囲に響き渡る。


 その声を聞きつけ、周囲から武装した兵士たちが集まった。

 何も知らない一般兵が。


「敵の暗殺者だ! ここはすでに制圧してあるが、周囲で休んでいる仲間を見に行ってくれ!!」


 イルムはまず、所属不明の襲撃者を敵の暗殺者であると断言し、周囲を味方に付けた。

 実際の所は分かっていないが、こうも容易くイルムを狙って忍び込まれたことから、この暗殺者は味方の誰かが送り付けた連中であると推測している。そうでなくとも、内通者がいる事はほぼ確定だ。

 それを口にすると問題の方が多そうなので、この場は敵にすべての責任を擦り付けた。


 あとは他に被害者が出ていないかを調べるように命じ、自身は軍団長の所へと向かう。

 事態が動いたのだから、報告の必要があるためだ。

 たとえ敵に内通している可能性があろうと、軍という組織に所属しているのだから何も言わないでいる事は出来ない。下手な行動をして自分の首を絞めたくないのだ。



 シャリーの心配が当たった。

 イルムはこの暗殺者たちの事を、その程度に判断した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ