エピローグ:旧友の忠告
「あ。シャリーだ、珍しい。久しぶりだね。元気してた?」
「お久しぶりです、イルムさん」
「さて。クリフの護衛でもしようか」と戦場へと向かった先で、イルムはシャリーと再会した。
シャリーはジャンの知り合いで、イルムの家を手配し、とある仕事の対価として給料を支払っている貴族の娘だ。
最近はほとんど顔を合わせないため、ここでの再会は数年ぶりである。
イルムは風の噂で、不本意ながらも彼女が結婚したと聞いていた。年寄相手の後妻である。
貴族の娘であるため、家を存続させるための結婚を受け入れたらしい。
これがどこかの若い男であったなら断ったかもしれないが、すでに枯れた男の相手をするぐらいなら構わないかと諦めたともいう。
そのあたりの細かい心情は、イルムであっても読み取れはしなかった。
イルムにできる気づかいなど、精々、シャリーのその件には触れず口に出さないようにするだけだ。
だから、「なんで戦場にいるんだ?」といった質問もしない。
シャリーの家は軍務系なので、そちら絡みだろうとあたりを付け、イルムは別の話をする事にした。
「今回も後方支援かな?」
「ええ。私はそれが専門ですもの、“隊長”」
シャリーはイルムの質問に笑顔で答えた。
懐かしい話だと、二人の間にしんみりとした空気が流れる。
「それはそうと、イルムさん。貴方、大変な事になっていますよ」
「……何か、あったっけ? 特に何かした覚えは無いんだけど」
「理由は分かりません。ですが、裏で多くの貴族が動いています。イルムさんを本気で排除するつもりでしょうね」
「本当に、理由が分からないんだけど。いや、騎士団長に言われていた事が理由か?」
シャリーは周囲に声が聞こえないように小声で、ただの雑談をしているかのように見せかけるため笑顔のままでイルムに忠告をした。
言われたイルムの困惑は本物だ。
ここ最近は戦場をより有利になるようにと支え続けているし、忠実に働いているという認識でいたからだ。
有用性は示しているので、殺される謂れは無いと思っていた。
イルムは騎士団長から戦争を穏便に終わらせるためにも「対外的には死亡したことにする」という提案を受けていたので、それを実際に殺した方が安全と思い直した連中がいたのではないかと気が付いた。
殺した事にする、ではバレてしまえばいろいろと面倒なので、実際に殺した方が安全で確実だと考えられたとしても不思議ではない。
であれば、貴族が裏でこそこそしているのも納得がいく。
……だからと言って殺されてやろうなどとは全く考えていないが。
持つべきものは友人であると、イルムはシャリーの忠告に感謝する。
周囲への誤魔化しのため、シャリーと他愛もない話をして、それを周囲に聞かせつつ、イルムは方針を考える。
この段階でイルムはまだ、貴族たちの根っこを抑えて脅し付ければ何とかなるだろうと、漠然とそのように考えていた。
しかしその考えは甘い。
貴族とは戦えない弱い者こそ多かったが、それでも生き残ってきた強い者でもある。
戦いとは武力に限ったものではないと、イルムは学ぶことになる。