クリフ参戦
「よぅ、久しぶり」
「クリフ! なんで戦場に?」
イルムが戦場に戻ると、なぜかそこにはクリフがいた。
「嫁と二人っきりなのは良いんだけどな……他の連中と顔を合わせずにいたせいか、少々、気まずくてなぁ。
ちょっとの間、離れることにしたんだよ」
クリフと嫁であるウノは、子作りのために二人っきりで一月ほど一緒にいた。
その結果、二人の間に微妙な空気が漂うようになってしまったのだ。
ちょっとしたケンカがあった時に仲裁する人がいない、相談する人がいない、愚痴をこぼせない。それは意外と大きなストレスになるものだ。普段であれば仕事で離れる事もあったが、今回はそれが無かったのが悪い方に転んだ。
別に、クリフはウノの事を嫌いになったわけではない。ウノの方も同じだ。
ただ約束の一ヶ月間を終えたのだから、少し離れて一人になる時間を作った方が最終的に二人の関係が上手くいく。それだけである。
クリフの説明に、イルムは自分の事を思い出すが、確かに言っている事が理解できる。
クリフには同性の友人と馬鹿な話をするなど、そういった嫁にはどうにもできない時間が必要なのだ。ウノの方も仲のいい友人と過ごす時間があった方が良い。
「愛している人と二人っきり。誰にも邪魔されない」というのは一見すると良さそうに見える話だが、よく考えてみれば問題の方が多かったわけだ。
世界は二人で完結しないのである。
しかし、イルムは苦言を呈する。
「だからと言って戦場は無いだろう、戦場は。嫁を未亡人にするつもりか?」
イルムはクリフが戦場に出る事を嫌がった。
妹の夫に死ぬ危険を避けろと言うのはごく普通の事である。
「そうは言ってもなぁ。今のご時世、戦場に出ずに過ごすのは難しいぞ。ここだって俺のダチも結構いるからな」
「それはそうだけど……立場を考えれば徴兵を逃れる事もできたんじゃないか?」
「公的にはただの平民だから無理なんだよ」
それは出来ないとクリフはイルムの言葉を躱す。
食い下がるイルムに常識や世間体を説き、クリフは引き下がろうとしない。
そこにイルムは引っ掛かりを覚え、何となく理解する。
クリフは、男の面子を守るために何か手柄が欲しいのだろうと。
ウノの女王という立場に見合う手柄など早々立てられるものではない。
それでも戦場に出て戦ったという勲章さえあれば、多少は胸を張ることが出来る。それでもまだつり合いは取れないのだが、何もないのとはわけが違う。
今のクリフは無位無官で手柄も何もない「どこにでもいる平民」でしかなく、ここでウノの恋人という立場に逃げれば、それはヒモでしかない。
クリフという男にとって、それは堪えられない話なのだと。
イルムはクリフの状況から戦場に行くことに納得し引き下がる事にする。
ほんの少し、様子を見守ることにして。