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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
8章 戦場にて英雄は名を轟かす(王国歴155年)
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貴族の苦労

 裏工作とは、関係者への根回しが重要だ。

 イルム排除論を掲げる公爵の一派は、「どうやって」という点を考えていた。


 方法の一つは戦争参加による「戦死」であるが、それが難しいことは先の開戦でハッキリしてしまった。

 戦争に駆り出そうと、今のイルムは簡単に死なないというのが共通認識である。公都に来た当初のイルムはまだ殺すことが現実的な能力の持ち主であったが、数年分の戦闘経験がイルムを成長させている。


 もちろん暗殺が難しいというのは当たり前。

 すでに微弱な毒を使い徐々に弱らせようと画策したことがあったのだが、イルムの≪毒耐性≫に阻まれ上手くいっていない。

 ならば最も単純かつ有効な手段として思い付くのは。


「妻子を人質にとってはならんというのがジャンの意見だったな」

「うむ。その時は人質を切り捨てるような男らしい。「人質を取るような人間の言動の、何を信用すればいいのか分からない」と言っているらしい。

 自分が死んだ後、必ず人質も殺されるだろうとな」

「間違ってはおらんが……普通は躊躇うものだろう?」

「盗賊相手にですが、人質を気にせず戦った事があるという話です。今は子供がいるので同じ事が出来なくなった可能性もありますが、試すわけにもいきますまい」


 大事な人を人質に、と言う手段であるのだが。

 それも出来ないと貴族達は嘆く。



 イルムの性格や行動指針については、ジャンがいくつも話をしている。

 ジャン本人は、イルムに対し貴族連中が余計なことをしないようにという穏便な判断により変なことはするなと釘を刺したつもりである。

 しかし貴族は「なんとかなる」「なんとかしなくてはいけない」と使命感に燃え、ジャンの忠告を無視しているわけだ。



 そうやって具体的な手段を思い付かない貴族達の話し合いは、次第に愚痴へと変わっていく。


「あの男が我らに恭順の意を示せばこういう事にはならんというのに。これだから礼儀をわきまえぬ若造は」

「成り上がりには成り上がりなりの配慮が必要ですなぁ」

「いざとなれば国を捨てれば良いと、その様に考えているらしいですぞ。流れ者はこれだから信用できんのです」


 イルムは権力への恭順の度合いが非常に低い。

 他の一般人達も内心では苦々しく思っていても顔に出さずに済ませるところでも、イルムは実力があり配慮される事が多い為、かなりハッキリとものを言う。

 引ける、引けないという判断基準が外の思惑により揺らぐことが少ない。


 イルムは理屈がしっかりしていればちゃんと従うし、ルールを無視するような男ではない。現地の常識に合わせ、多少の理不尽には目をつぶる。

 ただ、普段は権力者であるがゆえに無理が通る貴族からすると、どうしてももっと自分たちに気を遣い敬えと考えてしまうのだった。

 事実、他の平民は無茶を言おうがほぼ逆らわないのだから。


 この辺りは互いの常識の差である。

 平民だってイルムぐらい強ければ逆らうのだが、それが現実にはありえず貴族がそういった点に目を向けられないので、実力の差とも言う。



 ひとしきり愚痴を言い合った貴族達は、気分がすっきりすると本題に戻る。


「ならば、アレしかないですな」

「うむ。手駒としては物足りませんが、使える者なら使わねば進む話も進みますまい」

あの男(イルム)ほどの変わり種は、そう居ませんからな」


 イルムの妻子を人質にする事は出来ない。

 だが、その周囲の人間を刺客にするぐらいは可能である。

 相手を油断させ、確実に殺す為に。

 相手が手出ししにくい周囲へと、貴族達はその魔の手を伸ばそうとするのだった。

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