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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
8章 戦場にて英雄は名を轟かす(王国歴155年)
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捕虜確保

 アブーハの兵士を殲滅するのを後まわしにしてメルヒオールを優先するイルム。

 目の前の強敵を他の兵士に任せる気は無く、自分の手で捕らえる(・・・・)つもりであった。


 高貴な身分の敵というのは、捕虜にするととてつもない価値がある。

 この時代では身代金による捕虜の解放というのが多々行われており、下手に首を取る(殺す)よりも生け捕りにした方が有益である。

 手柄としては大将に劣るが、それでも公爵の息子という点を考慮すれば絶対に逃したくない獲物である。

 少なくとも、雑兵を切り続けるよりもずっといい。


 相手の思惑に乗せられる形ではあるが、乗るだけの意味があるのなら問題ないのである。



 メルヒオールは一刻でも長くミラルド(イルム)を足止めできればそれでいい。

 死ぬ可能性が高いが、自身の将としての価値を引き上げ、次の戦争への布石となるのだから無駄死にではないと覚悟を決めたうえでこの戦いに臨んでいる。


 メルヒオールに勝つビジョンは無い。

 矢が刺さらない謎の防御力とタワーシールドを両断する馬鹿気た攻撃力を攻略する方法など無く、単純に剣で切りつければ殺せるのだろうかと疑問に思う次第である。

 理想は勝つことなのだろうが、勝ち筋など無いと諦める。それが逆に開き直るきっかけとなったため、メルヒオールの心は乱れることなく戦いに意識を向けることが出来た。





 イルムの大剣がメルヒオールに迫る。

 しかし途中で剣を弾かれ上手く当てることが出来ない。

 イルムは続けざまに大剣を持つ手をしたたかに打ち付けられるが、その程度で大剣を握る手が緩むことは無く、剣筋が乱れるにとどまった。


 数度、それを繰り返せばメルヒオールもイルムの呼吸が分かってくる。

 何度目かの攻防の隙をつき、これまで使わなかった短剣を左手に持ちイルムの首に突き立てようとした。


 イルムの首は、鎧で守られている。

 しかし鎧には可動域を確保するための隙間が存在し、どんな攻撃でも絶対に防げるといった代物ではなかった。

 メルヒオール自身、この攻撃が通るとは思ていない。だが相手にプレッシャーを与えるためにも、メルヒオールは攻撃を当てられる」とイルムに思わせる必要があった。

 そうすることで戦いの駆け引きにおける選択肢を増やそうとしたのだ。


 メルヒオールの短剣が首の隙間を捉えようとして。


 大剣を投げ捨てた(・・・・・)イルムの拳がメルヒオールの腹につき刺さった。



「ぐ……。誘いだったのか」

「ああ。普通に大剣を振り回しても勝てなかったからな」


 イルムに生じた隙は、わざとであった。

 大剣の単調な攻撃であれば、手練れは必ず隙をついて必殺の攻撃を仕掛けてくる。

 そこで大剣を捨てればイルムにも勝機が生まれる。


 大剣を使って勝てないなら、大剣を捨てればいい。

 言葉にすれば当たり前の話であった。



 金属製の小手を装備した状態の、イルムの膂力で殴りつける。

 メルヒオールは内臓に致命傷寸前の傷を負ってしまい、気絶する。

 そんな彼をイルムは魔法でこっそり治し、死なないように処置をする。


 そして捨てた大剣を拾い、天に掲げ叫ぶ。


「アブーハ公爵の息子メルヒオール! 討ち取ったり!!」


 その叫び声が、戦いの終わりを告げた。

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