96.慰労会らしい
比和さんはすぐに宮砂さんに引き剥がされて遠くに連れ去られた。
僕は神籬さんにさりげなく誘導されて一番奥のテーブルに案内される。
当然だけど、そこには黒岩くんや高巣さんたちが護衛兵に囲まれて集まっていた。
こんな所でまで警戒しなくても(泣)。
「習性でございます。
それでは皆の者が揃ったようなので始めましょう。
殿下」
「はい」
一歩進み出た高巣さんが挨拶した。
もっとも内容は比和さんたちと大差なくて、まず優勝おめでとう、皆の者の頑張りのおかげです、私は2年1組王女としてこの成果を誇りに思います、というような話だった。
でも同級生たちは喜びに沸いていた。
人気あるなあ。
(というよりはそういう社会構成なんだろうな)
無聊椰東湖が呟く。
というと?
(君主が統治して下々は仕えるという構造だ。
矢代大地にはまだ実感出来ないだろうが、実を言えばサラリーマンも似たようなものでな。
組織が大きくなるとほぼ確実にこういった上下関係が出来る)
うん。
僕も無聊椰東湖の経験を「思い出せる」から言わんとする所は判る。
要するに人が集まったら必ず上下関係が発生するわけだ。
むしろ学校の方が特殊な例だろう。
先生がいるにしても、その下に数十人の同級生が建前上は平等で集まっているなんていう社会構造は他には存在しない。
まあ、クラスカーストみたいな疑似身分制度はあるけど、ここで無聊椰東湖が言っているのはそうじゃなくて、明確な身分や階級差が存在するということだね。
上下関係は絶対。
稀には昇格したり降格されたりもするけど、基本的なルールは変化しない。
(よって王女様にお声がけ頂いたりお褒め頂いたりすることは連中にとっては無条件で喜ぶべき事なんだろうな)
僕には理解し難い感覚だ。
いや違うか。
アイドルとファンの関係に近いかも。
ならば少しは判る。
お声がけ頂いたら有頂天になるらしいからね。
僕にはそれもよく判らないけど。
だって綺麗で可愛くてテレビに出ていて歌やダンスが上手いだけの女の子でしょう?
そんなの僕にはまるっきり関係ないから(泣)。
会場では歓談が始まっていた。
みんな楽しそうだ。
(2年1組臣民にとっては久しぶりの「戦い」だったんだろう。
何せ、前世では戦争していたらしいしな。
しかも積極的かどうかはともかくとしてその活動に従事していた連中なんだぞ。
闘争本能は一般人よりは上とみた)
そうなのか。
まあ僕には関係がないことですけど。
隅の方で紙コップ入りのウーロン茶をちびちび飲んでいたら誰かが寄ってきた。
「ダイチ殿。
退屈そうだな」
「そうでもないけどね」
加原くんだ。
前世は2年1組の錬金術師で技師長だったとか。
それがどれくらいの地位なのかは知らないけど、結構偉いんじゃないかと疑っている。
「長」がついているからね。
少なくとも鏡と琴根なんかよりは立場が上だろう。
「私もこういう席はあまり向いてないからね。
ダイチ殿の気持ちも判ろうというものさ」
(やけに親しげだな。
何かあるのか?)
無聊椰東湖の疑問を感じたのか、加原くんは渋く笑った。
「他意はないよ?
ただ、どうもこれから僕はダイチ殿と親密になりそうだから、この機会に腹を割って話しておこうかと」
「親密って?」
「それはもちろんここ、新会社での話だよ。
ダイチ殿は社長なんだし私は技術部長になる予定だから」
そうなのか。
まあそれはそうだ。
前世では技師長とやらだったんだから、日本でもそういう立場には立つよね。
「もう決まっているんだ」
「ダイチ殿は知らないだろうけど、黒岩や神籬は何度もダイチ殿の父上と会って詳細をつめているんだよ。
もう人事の骨格は出来ている」
「知らなかった」
社長なのにいいのか。
いいんだろうな。
僕は案山子だ。
ていうか社長やれって言われたって何がなんだか判らないし(泣)。
「そういえば親父が何も教えてくれないんだけど、その会社って何をするの?」
馬鹿馬鹿しい話だけど、自分の会社なのにそんなことも知らないんだよ。
僕の進学資金を投入した事業なのに!
僕、一体何をやっているんだろうか。
「そうだな。
基本的には王国の知識や技術を生かした開発や、それによって製作した製品の販売とかになると思う。
比和達は別部門で人材派遣をやるらしいが。
帝国や未来人たちは独自で動くみたいだけど僕はよく知らない。
別の事業部門だから」
穏やかに言ってジュースを啜る加原くんは、外見上はどうみてもちょっとヲタクがかった高校生なんだけど、その態度とか雰囲気は中年の落ち着いたダンディだった。
やっぱ前世が出てきているんだろうなあ。
加原くんの前世って、多分僕が今感じているそのものだったのかもしれない。
(そういう事だな。
この加原という奴も、かつてはでかい組織の中で大勢の部下を使ってバリバリ仕事していたはずだ。
技師長だったということは管理職であると同時に高級技術者でもあったと)
それは判るんだけど錬金術だよ?
イメージが全然違うんだけどなあ。
理工学系の研究者の雰囲気だし。
聞いてみるか。
「ちょっと聞いて良い?」
「構わないが?」
「錬金術って、僕が現代日本の高校生として持っている知識の錬金術で合ってるの?」
面倒くさい言い方になったのは加原くんも現代日本の高校生だから。
加原くんはその感覚でもって前世の錬金術を評価というか説明出来るはずだけど。
「うーん。
何というか……難しくはないんだけど厄介な質問だな」
加原くんは苦笑した。
「直感的に言えばイエスだろうけどね。
私が王国で行使していた錬金術は、当然だが王国があった世界における法則に従っていた」
「ええっと……つまり魔素が不可欠だと」
「よく判るね?」
加原くんは驚いたように言った。
「なるほど。
相談役がダイチ殿を指導役に推薦するわけだね。
その理解力は驚異的だ」
そうかな。
だって錬金術って少なくとも地球だとインチキというか、理論的に成立するものじゃなかったと思ったけど。
でも王国では普通に使われているとしたら、地球にはない条件が加わっているからだというのはすぐに判るよね?
(いや判らんぞ。
矢代大地が異常なだけだ)
無聊椰東湖酷い。
「黒岩くんが僕を推薦したと?」
「そう聞いている。
叙任の権利は王女殿下にしかないから推薦という形になるけど、殿下は相談役の言うことなら素直に聞くから」
そんなに信頼しているのか。
姫君と爺やみたいなものかも。
「私が聞いたところでは相談役はそれこそ姫殿下が物心ついた頃からずっと教育係を務めていたはずだよ。
王国の相談役は国王陛下の知恵袋みたいな存在だからね。
普段は仕事がない。
だから王族の専任教育係も出来る」
「そうなの!
つまり高巣さんは黒岩くんに育てられたと」
「そう言ってもいいかな」
何てことだ。
すると高巣さんにとって黒岩くんってむしろ「親」なんじゃないか。
そして黒岩くんにとって高巣さんは手塩に掛けて育てた娘。
それは大事にするはずだよなあ。
「ちょっと信じられない」
「その辺の所はみんな知っているから。
私達にとっては当たり前のことだよ」
加原くんはそう言ってジュースを飲み干した。
「あまり気にしないでいい。
今はもう、王国はないんだから」
立ち去ろうとする加原くんに慌てて聞いた。
「そういえば聞きたかったんだけど、加原くんって王国での種族は何だったの?」
何か人間じゃないような気がする。
「私か。
私は、地球の分類で言えば妖精かな。
もちろん本当に地球で言う妖精というわけじゃなかったがね」
やっぱし。




