90.戦力外通告されたらしい
次の日の放課後に役員一同で生徒会室に集合した。
いよいよ初仕事だ。
体育祭の準備は恐れていたより楽そうだった。
秘伝の書があるんだよ。
時々改訂されるらしいけど、基本的には前世紀からずっと同じ事を繰り返してきているらしい。
少なくとも二十年の蓄積があるわけか。
「進行表も決まっていますね。
時代の変化と共にいくつか削除された種目もあるようですが」
神籬さんが言った。
何で会計が?
「役職は便宜上のものです。
基本的には神籬が生徒会を運営します」
高巣さんが平気で言った。
会長や副会長は黙って従えばいいのか。
まあ、確かに僕はもちろん高巣さんもお飾りだし宮砂さんは僕の秘書役だからここにいるだけだしね。
生徒会を機能させるほどの実力を持っているのは神籬さんだけだ。
で、実務は王国のみんなにやらせると。
僕は最初から案山子決定だった(泣)。
「削除された、とは?」
高巣さんの質問に神籬さんは書類をめくりながら言った。
「人間ピラミッドや棒倒しといった過激な演技や競技が都度廃止されています。
世間で問題になるとすぐに止めたようですね」
「反対とかなかったのかな」
「生徒側も淡々と従ったと」
さすが如月高校。
無関心の極みだ。
そもそも体育祭なんか積極的にやる気がある人はいないのかもなあ。
運動部の人たちはど素人と競ってもしょうがないだろうし。
素人の方はそもそも関心が無い。
なのに体育祭自体が中止にならないのは、決まっていて伝統がある行事を積極的に止めるほどの気概もないからだな。
少なくともその日は授業が休みになる。
「判った。
準備は神籬さんに任せていい?」
「承知致しました」
これで僕の仕事はおしまいか。
まあ、書類に判子押すくらいはやるけど。
「でも神籬さん大変なんじゃない?
新会社の方も役員なんでしょ?」
「この程度は大した事ではございません。
王国では官僚をやりながら姫殿下のお世話を焼きつつ休戦協定の策定にも駆り出されておりましたので」
淡々と言っているけど何か表情が怖いよ!
案の定、高巣さんが青くなっていた。
「ご免なさい」
「何をおっしゃいますか。
本来は無関係だったはずの姫殿下が交渉団に名乗りを挙げられて、これ幸いと宰相閣下がお逃げになられ、続いて外務官僚どもが雪崩をうって逃げてしまったのは決して姫殿下のせいでは」
「あうう」
「おかげで私はいきなり王宮から呼びつけられて。
なし崩し的に交渉団の編成まで押しつけられて帝国の方々とやり合っている最中に何かが起きておそらくは死んだのでしょうが。
姫殿下の幼馴染みであったというだけで何故こんな目に遭わなければならないのか、などとはまったく考えておりません」
そういうことね。
神籬さんは高巣さんの乳姉妹か何かだったんだろう。
で、暴走する王女様の世話を押しつけられたと。
知りたくもない王国の内情を知ってしまった。
前世の事だからもう時効だよね、というわけにはいかない。
2年1組は現代日本においてもちゃんと存在しているんだよ。
同級生たちの心の中にだけだけど。
「そういうわけでここは私がやりますので。
宮砂は手伝って下さい」
「……はい」
さすがの宮砂さんも怖くて断り切れなかったらしい。
僕と高巣さんは生徒会室を追い出された。
「では参りましょう」
高巣さんはさっきの寸劇をなかったことにしたらしく、優雅に頷いて歩き始める。
黙って従う鏡と琴根。
近衛兵だからな。
僕がぼけっと突っ立っていると高巣さんに呼ばれた。
「ダイチ殿?」
「あ、はい」
僕も臣下なんだろうか。
(姫様が矢代大地を指導役とやらに任命したんだろう?
だったら臣下とまでは言わないが配下ではあるな。
ここは黙って従うことだ)
そうなのか。
畏れ多いが高巣さんと肩を並べて歩く。
礼儀的にどうかと思うけど高校の廊下だからね。
後ろの護衛兵の人たちも何も言わない。
「公務中であっても人目につく所では同級生として対応して下さい」
高巣さんがにっこり笑って言った。
「わかった」
「本当言えばもはや無意味なのですけれどね。
皆がわたくしにそう期待しているのであれば、わたくしは王女を演じるだけです」
憂い顔が可愛いなあ。
高巣さんが一番変わったかもしれない。
前世が蘇る前は手芸部の平凡な一部員でしかなかったのに、今や生徒会の副会長だ。
ていうかその前に2年1組の君主だけど。
立場だけじゃなくて、いやむしろ立場が人を作るのかもしれないけど高巣さんは数段美人になった。
気品も段違いで、背筋を伸ばしているせいかスタイルもよくなったような。
既に比和さんと違った意味でうちのクラスを代表する美人だったりして。
他の同級生たちはあんまり変わらないんだよね。
黒岩くんなんか前からずっとああだった気がする。
二人(+護衛)で現代文化研究会に向かいながら話す。
「そういえば会社の方はどうなっていますか?」
高巣さんが聞いてきた。
この人も役員だったっけ。
「僕もよく知らない。
親が進めているらしいけど伝わって来ないんだよ。
何か法的な手続きで色々やっているみたいだけど」
親父が言うには会社設立や諸々の申請なんかを弁護士や税理士なんかに頼んだそうだ。
それが終わるまでは動きがとれないらしい。
「高巣さんの方は?」
「同じです。
父に聞いても『矢代さんにお任せしたから』というばかりで」
そうだろうな。
高巣家はどれくらいか判らないけど会社に投資することになったらしい。
でも素人だから経営その他はプロに丸投げするだけだろう。
「父は『株を買ったと思えばいい』などと申しておりましたが」
高巣さんはため息をついた。
「何か凄く乗り気で。
わたくしの知らない所で何かあったのでしょうか」
「僕もよく知らないけど、親父がみんなの親と会ったり飲んだりはしているみたいだよ」
水面下では動いているんだろうな。
高校生の知らないところで大人たちが暗躍しているはずだ。
そんなこと言い出したら高巣さんや僕だって前世の分の経験は積み上げているはずなんだけど。
僕はともかく同級生たちは中世の王国からそのまま転移してきたみたいなものだからなあ。
いくら人生経験があっても現代日本では赤子同然か。
(俺は瑞穂皇国人だからな。
結構役に立つぞ)
無聊椰東湖がよく判らない主張をしてきたけど無視。
実際、現実的にはあまり役だっていないような。
「とりあえずは体育祭です。
失敗しないように頑張らなければ」
高巣さんがぐっと拳を握りしめる。
あのー。
僕ら戦力外通告されたばかりなんですが(泣)。




