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8.そんな風に思われていたらしい

 黒岩くんと高巣さんの話では休戦交渉とはいえむしろ調印式のような場だったようだ。

 既に両軍とも疲弊し切っていて、これ以上やったら双方が壊滅的な打撃を受けそうだったとか。

 王国の上層部もそれを承認しているからこそ交渉事に慣れていない王女(高巣さん)を首班とした交渉団を送り込んで来たと。

 魔族軍(相手)の代表は将軍という話だったけど、相手も一応は帝家に連なる高貴な家柄の人だったという。

 つまりその時点ではほぼ休戦が確定していたんだよね。

「ならどうして」

「当然ではございますが、双方とも内部に休戦を良しとしない勢力が存在するわけでございます。

 襲撃(テロ)の可能性が高く、護衛はむしろ自国の不穏分子の活動を阻止するために配置されておりました」

 なるほど。

「でも阻止出来なかった」

「で、ありましょうね。

 その記憶はございませんが、如月高校2年1組一同(我等)が揃って転生した以上、何らかの襲撃があったものと推定されます」

(全員と言っても無聊椰東湖(オレ)は違うけどな)

 それを言うなら矢代大地(ぼく)でしょ!

「襲撃があったってことは、相手も死んだのかな」

「不明でございます。

 少なくとも如月高校2年1組一同(我等)の中には魔族はおりません故」

「ちょっと気になるんだが」

 無聊椰東湖(オッサン)が口を出した。

「人数がぴったりというのはおかしくないか?

 ガ……矢代大地(オレ)を除いたこのクラスにしか転生者とやらがいないというのは変だ」

 無聊椰東湖(オッサン)は口を出すなと言っているでしょう!

 もう遅いか。

「それについては何とも。

 ただ、砦に詰めていた王国臣民全員が転生したわけではないようでございます。

 休戦交渉団およびその随員や護衛は百人を越える編成でございましたので」

「すると他にも転生者はいると?」

「可能性はございますね」

 引き続き捜索は行う予定でございます、と黒岩くん。

 丁寧過ぎる口調がキャラに合ってないんだよなあ。

 話し方だけ聞いていると初老の落ち着いた小柄な学者さんなんだよ。

 でも声自体は重低音だし、話しているのはプロレスラー予備軍みたいな巨漢なんだもん。

「わが臣民も心配ではありますが、わたくしが危惧しているのは別の問題です」

 王女(高巣さん)が口を挟んだ。

「矢代大地殿のおっしゃる通り、我々が一斉に亡くなったとすれば同席していた魔族の方々も無事とは考えにくい。

 転生したのかどうかはともかく、双方の代表団が全滅したとすれば当然休戦協定が破られます。

 つまり王国と帝国は再び戦闘状態に戻ったのではないかと」

 今さらではございますが、と高巣さんは肩を落とした。

 それはそうだよね。

 僕も高巣さんたちも高校2年生だ。

 つまり転生し(生まれ)てから16年以上たっている。

 常識? で考えたら王国と帝国の戦争なんかとっくに決着がついているだろうし。

「そうですね」

 益々沈んでしまった。

 でも、だったらもっと判らない。

 今さら打つ手がないんだったらどうしようもないわけで。

 前世は忘れて日本の高校生活を楽しむというのは……無理なのか。

 意識が王国臣民になってしまっているという話だった。

 これ、転生もののラノベでよくある設定だな。

 乙女ゲームに似た世界に転生したら公爵令嬢だったけど、意識や知識は日本の女子高生とか。

 それは適応しにくいよね。

 礼儀作法とか全然違うだろうし。

 高巣さんの場合は逆なんだけど、封建制国家の王女が記憶も意識もそのままで日本の女子高生を演るのは大変だろう。

「おっしゃる通りでございます」

 黒岩くんが勢い込んで言った。

「昨日までの私共とは意識が違っております。

 正直、今朝目覚めてから今に至るまでの違和感が尋常なものではございません。

 登校自体、無意識で行った気が致します」

「わたくしにも『高巣洋子』としての記憶がありますので、生活することは可能と思います。

 ですが終わりのない舞台に立たされているような感覚が抜けず」

 高巣さんは疲れた笑みを浮かべて言った。

「わたくしは王女として、ある意味常に演技しているようなものでございました。

 そういう意味では慣れていると言えなくもありませんが」

「そんなことはございません!」

「姫殿下は御立派に務めを果たされておられます!」

 周りの人たちから援護の声が上がった。

 でもそれ演技が上手いって言っているのと同じだよな?

(だが判る気はする。

 俺と矢代大地(ガキ)は年齢や経験こそ違うが、お互いの社会環境は似たようなものだ。

 価値観もそんなに違わないだろう。

 だから俺が矢代大地(ガキ)の立場で動いてもそんなに齟齬は出ない)

 いや出ていると思うけど。

(だが封建国家の王族や臣民だった奴がいきなり民主体制国家の高級中学生にされたらそれは大変だ。

 記憶があるとしたって違和感どころじゃないはずだ。

 いや、むしろ記憶があるからこそ混乱するか)

 そうだよね。

 無聊椰東湖(オッサン)は詳しくないみたいだけど、異世界転生もののラノベだと前世の記憶が蘇った主人公は大抵1週間くらい寝込むから。

 僕は無聊椰東湖(オッサン)が前世だったからまだマシだったみたいだな。

 みんなよく登校して授業を受けられたものだ。

「王族は言うに及ばず王国臣民は程度の差こそあれ、全員が非常事態に陥った場合の対処について訓練されております」

 黒岩くんが説明してくれた。

「状況把握と現状維持を行い、周囲の状況に合わせて行動する。

 基本でございます。

 そのせいもあり、全員が自然に登校致しました。

 これも日頃の鍛錬のたまものかと」

「そして登校してさりげなく周囲を探ればすぐに理解出来たわけでございます。

 姿形は変わっておりましても、王国臣民としての癖や態度、対応は見慣れたものですので」

 そういえば今朝登校したらいきなり「お前は誰だ」とか聞かれたな。

 あれって僕も王国臣民だと思われていたのか。

(あいにく俺は瑞穂皇国民(サラリーマン)だけどな!)

 無聊椰東湖(オッサン)は黙ってろよ!

 でも何となく判ってきた気がする。

「僕に指導しろって、つまり」

「はい。

 生活指導をお願いしたいのです。

 いえ、むしろ適応訓練(ナビゲート)と言ったところでしょうか」

 高巣さんが頷いた。

「私どもには日本人としての記憶はあっても、それは本に書かれた知識のようなものでございます。

 日常生活は何とかなるでございましょうが、今後の人生に不安を覚えております故」

「指導とか言われてもね。

 僕、そんなに大したことは出来ないと思うんだけど」

「それでも根っからの日本の学生でございましょう?

 わたくしたちにとって、唯一と言って良い気心が知れたお仲間でございますので」

 単なるクラスメイトだけどね。

 ボッチだし。

 でも確かに言われて見れば、クラス全体からみて校内で一番親しいと言えるのは僕なのかも。

 部活仲間なんか、その人だけの知り合いでしかないからな。

 つまり僕は元王国臣民にとっての共有財産みたいなものなのか。

(だがやはり変じゃないか?

 矢代大地(ガキ)は確かにこいつらのクラスメイトではあるが、人を指導出来るような奴じゃないぞ?)

 無聊椰東湖(オッサン)に言われたくないけど確かに。

「でも僕でいいの?

 言いたくないけど、僕はあまり頼りにならないよ?」

 すると高巣さんが何でもないように言った。

「矢代大地殿が適任でございます。

 大地殿は異世界や転生についてお詳しいのでしょう?」

 厨二病(ヲタク)認定されていたのかよ!

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