88.無投票当選らしい
生徒会選挙の公示日に僕が立候補を表明すると如月高校内の空気は微妙になった。
一部では僕のことをハーレム野郎だとか調子に乗っているとかの悪口が囁かれているらしい。
確かに最近、いつも宮砂さんと一緒に動いていたり女の子とカラオケ行ったりして悪目立ちしていたからなあ。
生徒会役員候補も女子で固めたという噂が広まっていて、それは事実だからしょうがないんだけど。
「お気になさらないことです。
万一の場合は王国がお守り致します」
黒岩くんが請け合ってくれたけど、背後に仁王立ちする鏡や琴根が頷くのを見るとありがた迷惑というか。
もっとも如月高校は何事にも無気力な学校なので大したことにはならなかった。
イジメなんかする気力がない、というよりは他人に関心がない。
今では珍しくないと思うけど、進学校である如月高校の生徒はこの場所を通過点としか見ていない。
だってほとんどの生徒が卒業後は大学や高度専門教育機関に進むんだよ。
人生的に言って如月を離れた後の方が遙かに重要だし、高校で何かやらかして躓いたりしたら馬鹿馬鹿しいもんね。
「それにしてはスポーツで結果を出す者も結構いるようなのですが」
「将来に繋がりますからな。
スポーツ推薦で進学する者も一定数はいるようでございます」
高巣さんの疑問に黒岩くんが答えている。
僕なんかより遙かに校内事情に詳しかったりして。
やっぱ生徒会長やらない?
「私は表舞台には立たない方がよろしいかと。
新会社でも裏方に回る予定でございます」
(ま、そうだろうな。
いかにも裏がありそうな奴は看板にしない方がいい。
矢代大地みたいに抜けていて軽く見られそうな方が向いている)
無聊椰東湖、言い方に気をつけてね。
僕としては他の立候補者が出たらすぐに撤退する予定だったんだけど、1週間の公示期間が終わっても僕以外には誰も立候補しなかった。
「おめでとうございます。
無投票当選でございます」
嬉しくない(泣)。
何でこうなるのかなあ。
僕が生徒会長だってさ(笑)。
その夜、久しぶりに一家3人が揃った夕食の席でぶちまげると両親が言った。
「そうか。
おめでとう」
「さすがダイチね。
凄いわ」
台詞が棒読みだよ!
感情が籠ってない!
「そう言われてもな。
どうせ大学推薦のための内申書目当てだろう?」
「ダイチの好きにすればいいのよ。
青春の思い出として」
僕の親も無関心だった。
実社会で本物の生存競争を繰り広げている両親にしてみたら僕の悩みなんか鼻毛程度なんだろうね。
(それが判ってしまう矢代大地もある意味不幸というか。
俺の経験のせいじゃないよな)
もちろん、それだけじゃない。
無聊椰東湖が出てくる前から僕はある意味醒めきっていたみたいだからなあ。
将来どうなりたいとかどうしたいとか、全然思い浮かばないんだよ。
どうでもいいというか。
ただ苦労はしたくないのと、やっぱ貧乏は嫌なのでちょっと頑張っているだけで。
こんな奴が王国の指導役、いや生徒会長でいいんだろうか。
まあいいか。
(矢代大地の醒めた所って両刃の剣だな。
やっぱ矢代大地ってどっか変だぞ)
ほっといてよ(泣)。
両親の了解も得られたということで僕は開き直った。
何とかこの1年間を無事に過ごしていい大学の推薦貰おう!
そしてその日が来た。
そろそろ冷たい風が吹き始めたある日。
誰か頭のいい人が考えたらしくて、避難訓練で校庭に追い出された僕たち生徒はクラスごとに整列させられた。
生徒会の引き継ぎをここでやってしまおうというわけだ。
何というイージーな。
(この学校における生徒会の立場が判るな)
まったくです。
うっかり上着を教室に置いてきてしまった半分くらいの生徒が寒さで震える中、まずはひょうきん系会長を筆頭とする現生徒会役員が全校生徒の前で整列する。
会長はほんの一言か二言か喋っただけでいきなりこっちに振ってきた。
「では今年度の生徒会役員を紹介する。
矢代大地君だ!
よろしく!」
個人名出すんじゃない!
でもひょうきん会長はそれだけ言ってさっさと引っ込んでしまったので、僕たちはゾロゾロと先生たちの前に並んだ。
予め待機させられていたんだよね。
新生徒会長である僕、矢代大地。
副会長の高巣さん。
書記の宮砂さん。
会計の神籬さん。
ハーレムじゃないよ?
「ええと。
2年1組の矢代大地です。
会長です。
よろしくお願いします」
それだけ言って口を閉ざす。
白けた空気が漂いかけた時、いきなり生徒たちの一角から拍手が起こった。
最初は一人だったんだけどあっという間に増殖する。
釣られたのかやる気がなさそうだった生徒たちも手を叩き始め、いつしか万雷の拍手へと。
何なのこの羞恥プレイ。
じとっとした眼で見てみたら比和さんを初めとする2年1組の連中が激しく手を叩いたり振ったりしているのが判った。
余計な事を!
まあ、比和さんが喜んでくれているみたいで良かったけど。
しばらく待っていると拍手が治まってきた。
僕の隣にいた高巣さんがすっと前に出る。
「高巣洋子です。
副会長を拝命致しました。
頑張ります」
よく通るソプラノだった。
一瞬間を置いて、どっとばかりの拍手が沸き起こった。
僕なんか目じゃない。
2年1組の同級生たちはもちろんだけど、関係ない人たちまでが歓声を上げたり全力で手を叩いたりしている。
高巣さん、こんなに人気だったっけ?
(違うだろう。
女の子というだけで魅力的に見えるんだろうさ。
その前が矢代大地だったからな)
比較の問題ね。
生徒達にしてみれば僕なんかに拍手してしまった以上、美少女相手なら少しでもそれを下回ってはいけない。
侮辱になってしまう。
しかも高巣さん、この数ヶ月でマジ変わったからね。
もうおっとりした手芸部員はいない……わけでもないんだけど自信がついたのか背筋が伸びてスタイルの良さがはっきり見えている。
前はちょっとぽっちゃりしているみたいに見えたけど、少しダイエットしたのかな。
とにかく今はテレビに出ているアイドル並にはほっそりだ。
しかも可愛い。
さらに何となく上品な印象が滲み出るようになってしまった。
生徒達にしてみればノーマークだった美少女がいきなり現れたようにしか思えないんだろうね。
普段の高巣さんは立場もあって防備が堅くて、他のクラスの者は接触どころかあまり姿も見られない。
噂くらいにはなっているかもしれないけど、実体はよく判らなかったわけだ。
そんな美少女が突然降臨したんだから当然か。
(矢代大地が好きなラノベとやらにはないのか、そういうの)
ない……ような気がする。
だって今のところ、単に一人の女の子が夏休みを経て変身したというだけなんだよ。
変身といっても魔法少女じゃないけど。
王国王女になったと言った方がいいか。
何か面倒になりそうな気がする。
いや、僕は平穏無事を目指すぞ。
「宮砂です。
書記です」
「会計の神籬と申します」
高巣さん以外の役員の挨拶も、その度に拍手と歓声だった。
主に男子らしかったけど。
二人とも美少女ではあるからね。
如月高校ってこんなに俗な生徒が多かったっけ?




