79.説明会らしい
ランチを早めに切り上げて事務所に戻った。
開始時間までまだかなりあるのに、もう人が集まっている。
「ダイチ。
来たか」
親父が頷いた。
母さんもいる。
さすがに責任者だからね。
遅刻でもされたら僕、パニックだったけど大丈夫で良かった。
「失礼致します。
ダイチ殿のご両親でございますか」
黒岩くんが早速挨拶していた。
そういえば初対面だったっけ。
一気に会社設立まで突っ走るもんだから誤解していたけど、よく考えたら僕の両親って同級生たちのことはほとんど知らないんじゃない?
(あの巨乳メイドさんたちとは会っているだろう。
矢代大地が思うほど無警戒じゃないぞお前の両親は)
なるほど。
やっぱただもんじゃない気がしてきた。
自分の両親なのに今頃知るとは(泣)。
親父と母さんは黒岩くんや高巣さん、それに晶さんと軽く挨拶していた。
この3人が重要人物だと知っていたらしい。
益々得体が知れないなあ。
まあいいか。
僕には関係ないからね。
(矢代大地のその思い切りの良さというか執着心や警戒心の無さはひとつの武器だとは思うが)
無聊椰東湖に呆れられた。
(やり過ぎると気がついたら引き返せないところに追い込まれかねんぞ)
そんなもん?
別にいいけど。
もうここまで来たらなるようになれだ。
(ひょっとして絶望してるのか?)
してるよ!
そうこうするうちに他の同級生の親や武野さんたちご一家も到着して部屋が狭くなった。
黒岩くんの命令で今回の説明会に関係がない、というよりは親が来ない人たちが部屋から追い出される。
酷い。
「落ち着いたら後ろの方に入れます」
いつの間にか戻って来ていた神籬さんが教えてくれた。
この人も親が来ているんだけど、逆に言えば役員候補ということでむしろ主催者側だからね。
普通、こういう父兄説明会は親子が揃って説得される側になるはずなんだけど今回は違う。
僕の場合は更に複雑というか、当事者だからなあ。
僕の大学進学資金がかかっているのに何も出来ないとは。
晶さんとショーゴくんがそれぞれの親らしい人たちと一緒に親父に挨拶していたけど、僕は何か力が抜けて隅の椅子に座り込んでしまった。
僕、何やってるんだろう。
「ダイチ様」
軟らかい声がかかった。
見上げると美人のアップ。
比和さんか!
「何?」
「私の家族をご紹介させて頂きます」
何もこんな時に!
僕は慌てて椅子から立ち上がった。
「矢代大地です」
頭を下げる。
「どうも!
比和進です。
春美の父です」
「春美の母でございます。
娘が色々お世話になりまして」
「大地君か。
秋菜よ。
春美の姉!」
怒濤の自己紹介!
さすが比和さんのご家族だけあってテンションが高い。
僕の前に立っていたのは芸術家風の中年男性に良妻賢母型のご婦人、そして小柄な女の子だった。
ていうか女の子って比和さんの姉さん?
「ちょっと!
私は正真正銘春美の姉よ!
女子大生!」
すいません。
更に何か言いかけたところに僕の親父の声が響いた。
「えー、それでは始めたいと思います。
席にお着き下さい」
「ダイチ様。
それでは」
比和さんが言ってみんなが席に向かって行く。
驚いた。
(ご両親に引き合わされたか。
着々と進んでいるな)
そんなんじゃないでしょう。
しかしいきなりだったから驚いた。
まだ心臓が治まらない。
(巨乳メイドの姉というから期待していたんだがな。
まあ合法ロリ……とまではいかんか)
無聊椰東湖、僕の知識に毒され過ぎでしょう!
前世の僕ってこんなんだったのか。
生きていた時には機会がなかっただけで潜在的なヲタクだったのかも。
スクリーンの前ではまず親父が挨拶してから自己紹介をやっていた。
お客さん? たちが感心したように声を上げたり小声で話したりしている。
そんなに有名なの?
「ダイチ殿のお父上はかなり有名なコンサルタントのようですね」
いきなりそばで声がした。
またかよ!
宮砂さんがさりげなく僕の隣の椅子に座っていた。
「驚いた」
「申し訳ありません。
ですが秘書ですので」
そうなの。
まあいいけど。
「僕の親父って有名なの?」
「お父上がというよりは所属されている会社ですね。
更に言えばお父上の肩書きが凄いそうです。
フェロー、というのでしょうか」
フェローね。
どっかで聞いたことがあるけど思い出せない。
「本来は大学や研究機関の特別研究員の意味らしいのですが、日本では少し違った意味で使われているようです。
取締役待遇の社員でしょうか」
何だそれ。
凄く偉いように聞こえるけど。
「偉いんじゃないですか?
役員待遇ですよ。
指揮系統には入っていなくても権限や動かせる予算が段違いで」
親父ってそんなに凄い人だったのか。
ていうか宮砂さん、やけに詳しいね?
すると宮砂さんはちょっと視線を外した。
「調べました。
今回の新会社のお話はダイチ様のご両親が関わっておられると聞きましたもので」
そうなの。
それはそうかもなあ。
宮砂さんが僕の監視役だとしたら、僕に関係ありそうな人について調べるのは当然だ。
増して親父は今回の件の黒幕みたいなもんだからね。
調べないはずがない。
スクリーンの前から親父が消え、画面が映し出される。
あれは何だったっけ。
「プレゼン用のソフトですね。
凄い。
やっぱりプロなんだ」
宮砂さんが感心して画面を見ていた。
そうなのか。
よく判らないけど親父が本気な事だけは判る。
多分、仕事でやるのと同じレベルでやっているんだろう。
(確かにそうだな。
俺から見ても一流の仕事と思える。
矢代大地の親とは思えん)
勝手に思ってて(泣)。
親父はその何とかいうソフトを使って何か色々説明した後、合図した。
誰かが立ち上がって舞台? に昇る。
比和さんじゃないか。
「実例ですね。
既に実績を挙げていますから」
メイド部隊は実際に働いて儲けているからね。
今のところバイトだからあまりお金にはならないみたいだけど、それを会社化して発展させようということか。
親父の奴、何てことを考えるんだよ!
息子の同級生を使って金儲けか。
「……このように、既にお子さん達は自分で考え、動き始めております。
我々大人はできる限り彼らの自主的な判断を尊重しつつ、最大限の努力で助力してゆくべきかと」
親父、詐欺にしか聞こえないよ!




