7.みんな死んだらしい
高巣さんと黒岩くんが交互に話してくれたところによれば、事態は相当深刻だということだった。
僕がぼやっとしている間に如月高校2年1組では休み時間を使って緊急会議が開かれたらしい。
まずは全員の素性の確認。
それぞれ自分の前世を自己申告して貰って相互に確かめる。
幸いと言っては何だけど、2年1組は僕以外全員の前世が同じ王国の臣民であると判明したという。
何その厨二病患者の中学二年生が書く小説のような設定は。
僕だったら恥ずかしくてそんなの黒歴史ノートに封印して燃やすぞ。
「うちのクラスだけなの?」
「そのようでございます。
はっきり確認したわけではございませんが、他のクラスや在校生、教師などにも転生者はおられないようで」
クラスメートはみんなそれなりに部活や同好会なんかに所属しているので、同級生や先輩・後輩にさりげなく探りを入れてみたけど反応はゼロだったらしい。
「あの言葉で?」
「はい。
王国語で話しかけてみましたが応える者はおりませんでした」
危な!
そんなことしたらクラス全員が厨二病だとバレない?
「一当たりして反応がなければ撤退するように指示しましたので」
「それにしてもヤバいよ。
止めた方がいい」
「そうですね。
王国語は使わないように徹底しましょう」
ふと見ると高巣さんの隣に座っている女の子がメモを取っていた。
神籬素子さんだったっけ。
いわゆる「才女」で成績は学年トップ。
運動大会とかでは活躍するので身体能力も高いみたいなんだけど、なぜか運動部にも文化部にも所属していない。
もちろん生徒会役員というわけでもない。
すらっとした細身で美少女というよりはハンサムという造形だ。
背も高くてハイスペック、つまりカースト上位の資格十分なのにあまり表に出てこないという謎な女子で有名だったと思う。
ラノベだといそうでいないタイプだな。
僕が名前を覚えているくらいだから目立った存在ではあるんだけど、いつも控えている感じで自ら表に出てくることはまずない。
そんな人がメモ?
「私は王女殿下付き女官でございました。
現在は秘書を兼ねます」
神籬さんは僕が見ているのに気づいたのか顔を上げて言った。
(好みだ。
いや俺はロリコンじゃないけど、この神籬って子はとても高級中学生という印象じゃないぞ。
ハマルト機業の秘書課とかでも十分やっていけそうじゃないか)
いや神籬さんは前世はどうあれ今は女子高生だから。
無聊椰東湖は引っ込んでいてよ。
「まあ『設定』の問題は置いといて、僕以外のクラスメイトが前世持ちだということは判ったけど。
でも日本人としての記憶があるんだったら何が問題なの?」
前世がどうあれ今は高校生だよね。
しかも生まれてから今まで日本人として生活してきた記憶もある。
実際、今日も学校では高校生していたわけだし。
普通に生活していけばいいだけなんじゃないのか。
僕もそうなんだけど(泣)。
無聊椰東湖が五月蠅いのは確かに面倒だが、深刻というほどじゃない。
だって僕も俺も同じ人間なんだし。
「おかしいとは思われませんか?
同じクラスの全員、いえ矢代大地殿以外の全員が同じ前世持ちでございます。
しかも他のクラスには見当たらない。
どう考えても何者かの意志が働いているとしか」
黒岩くんの言う事はもっともだ。
ていうかそんな厨二病設定を持ってきた時点でバレバレだよ。
このストーリーいや設定を作った奴は間違いなく厨二病患者な上に文才がない。
ラノベ作家は諦めるべきだ。
それにしても僕の存在は何なの?
僕以外の全員が主人公とか?
(少なくとも無聊椰東湖は主人公でもモブでもないぞ。
勝手に登場人物にするなよ)
困惑する俺に向かって黒岩とかいう格闘士が言った。
いや俺じゃなくて僕だけど。
「実は2年1組の生徒に転生した我々には共通点がございます」
「王国の臣民なんだろ」
無聊椰東湖は口を出すなよ!
口調が僕じゃないから!
「それに加えて、我々の最後の記憶を照合した所、全員が共通しておりました。
同時期、同場所でございます」
(最後の記憶ってつまり、生前のラストか)
つまり死ぬ直前ね。
「それが共通していたってことは」
「はい。
わたくしたちは何らかの理由でほぼ同時に死んだと思われます。
場所は●ムアィ△ョ砦です」
あいかわらず固有名詞は聞き取れない。
よくそんな訳が判らない発音が出来るな。
王国語って凄い巻き舌とか擦過音混じりみたいなんだよ。
いやそんなことはいい。
砦か。
そこで死んだと。
「戦争でもやってたの?」
「休戦交渉中でございました」
黒岩くんが重く言った。
やっぱし。
休戦交渉ってことはまだ戦争中だったってことだよね?
しかも砦って言ったよね?
ひょっとしたら最前線?
「そうです。
実質的には両軍が睨み合っている真ん中にある中立地帯といったところでしょうか。
もともとはわが王国の所有でございましたが、何度か攻略・占領されております」
「その度に奪い返した?」
「はい」
(最前線どころじゃないな。
いわゆる殺戮地帯という奴だ。
死体や負傷者がゴロゴロ転がっていたりして。
俺がビビッてるのに矢代大地は平気だった。
実感が沸かないのか。
まだ子供だからな)
うん、確かにそうだけど無聊椰東湖は黙っていてね。
さっきも勝手に発言していたでしょ。
口調がアレだから怪しまれたりしたらどうするの?
「でも休戦していたんだよね」
「条件を交渉中でございました。
砦のホールには我が王国の姫様を首班とする交渉団と、魔族軍の将軍および参謀団が向かい合わせになって机につき」
「ちょっと待って!
戦争の相手って魔族なの?」
「そうですが?」
高巣さん、簡単に肯定しないでよ!(泣)
王国って魔族と戦争していたのか。
「ああ、これは言い方を間違えました」
黒岩くんが頭を下げた。
「日本語では『魔族』になってしまいますが、実際には相手も人間でございます。
そういう意味では魔族軍という用語も不適当でございました。
ペ△ニョ○ッタ帝国軍と呼ぶべきでしたな」
びっくりした。
厨二が炸裂したのかと思った。
勇者とかはいないよね?
「勇者……というのは日本語でございますか。
勇敢な者はもちろんおりますが」
高巣さんも黒岩くんも首を傾げた。
ひょっとして知らない?
そういえばうちのクラスって妙に現実主義というか常識的な人が多いんだよ。
普通ならクラスにヲタがかった人が数人はいてもいいはずなのに、全然いない。
僕だってオタクというほどじゃないし。
(いや、矢代大地は十分そのオタクとやらだと思うね。
俺が真っ当なサラリーマンだからかもしれんが、さっきから聞かされている話は常軌を逸しているぞ)
それに平気でついていっている僕はオタクだと無聊椰東湖は言いたいわけか。
ああもう。
僕、大混乱だよ!
「話を続けてよろしいでしょうか」
「……お願いします」
とりあえず厨二病設定の事は置いておこう。
そもそも前世が出てきた時点で厨二が確定しているんだし。
何か判断するにしても最後まで聞いてからだな。
「休戦交渉が始まっていくらもたたないうちに何かが起こったようなのでございます」
「何かって?」
「判りません。
記憶が曖昧なのです。
おそらくは死んだのではないかと」
そんなこと、よく平然と語れるね?




