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6.適応障害らしい

 同級生(クラスメイト)たちは目に見えて緊張を解いた。

 早速ドリンクバーから持ってきたメロンソーダなんかをズルズル啜っている奴もいる。

「やっぱ俺、これ好き」

「お前、姫の御前で」

「相談役申し訳ございません」

「構わぬ。

 むしろもっとやれ。

 日本人高校生らしく」

 面倒くさいなあ。

(しかし高校生らしく、か?

 確かに俺も無聊椰東湖(サラリーマン)である事を表に出さない方がいいかも。

 なるほどそういうことか)

「お判りになられたようでございますね」

 黒岩くんが僕を見つめて言った。

「その通りでございます。

 我々は全員、王国の臣民だったと同時に如月高校2年1組の生徒である、という記憶がございます。

 ご覧になっておられる通り、高校生としての行動は一応問題なく出来ます。

 ですが」

 高巣さんがため息をついた。

「ここからはわたくしが。

 お気づきとは思いますが、この口調は現代日本の女子高生としてはおかしいでございましょう?」

 確かに。

 ラノベでよく出てくる乙女ゲーム風の悪役令嬢みたいだ。

 あるいは王女様とか。

 いや、本物の王女様か。

 重度の厨二病という疑いもあるけど。

「確かに高巣さんのキャラには合ってないとは思う。

 でも不自然というほどじゃないような」

 女子高生同士ならふざけてその程度はやりそうだし。

「キャラ作り……で片付けるには痛々しいでしょう?

 頑張れば『高巣洋子』を演れないこともないんだけど」

 高巣さんは女子高生の口調で言ってから表情を顰めた。

「無理があるのです。

 わたくしの意識はほぼ完全にティ□バ○リェ(王国王女)です。

 高巣洋子は愛読していた小説の主人公のような感覚で」

 何か物凄く変な名前が聞こえた。

 日本語じゃないし、そもそも人の名前とは思えないような。

 異世界語か。

 厨二病もここに極めり。

「私共も同様でございます」

 黒岩くんが引き取った。

「さきほどから私の言動が痛々しいとお感じになられているかと思いますが、王室相談役としての私にとってはこれが普通でございます。

 むしろこうしない方が苦痛で」

「オラもそうでして」

 突然、端の方に座ってミルクセーキをズルズル啜っていた男が言った。

 柔道部の尾崎くんか。

 体格は普通なんだけど、いわゆる細マッチョという奴だ。

 クールなナイスガイなのでモテていたと思うけど「オラ」?

 何で方言が出てくるんだろう。

「オラ……私は平民出で礼儀をしらねえもので。

 姫様や相談役のそばに居座ってええものかと」

「実力で護衛の任についたのだから良いのだ。

 だが出来れば『オラ』は止めよ」

 黒岩くんに言われて尾崎くんはしゅんとなった。

 やっぱ「オラ」は駄目か。

「このように、王国臣民の感覚でいると話し言葉や行動がおかしな方向に向きます。

 ▼ムジェラ○ザ……尾崎の場合、王国では庶民上がりの護衛だった故、言葉も下町語とも言うべきものでございました。

 なるべく日本語を話せと言われてその感覚で言葉を発すると標準語ではなくなってしまうようで」

 尾崎くんは熱心に頷いている。

(そういうものなのか。

 無聊椰東湖(オレ)の感覚では矢代大地(ガキ)と合わせるのは難しいというほどじゃない。

 30代のサラリーマンでもちょっと気をつければ高級中学生と何とか不自然ではない会話が出来るからな。

 もちろん無聊椰東湖(オレ)は瑞穂皇国人であって日本人ではないが、幸いな事に瑞穂皇国と日本国はほぼ同じ文明進度である上に言葉まで一緒だ。

 感覚的な違いがほとんどない)

 そうか。

 だから僕と無聊椰東湖(オッサン)は共存出来ているってことだね。

 僕が無聊椰東湖(オッサン)の記憶を覗いても、ただおっさんであるとしか思えないし。

 だけど、高巣さんや黒岩くんの前世は現代日本とは似ても似つかない異世界王国だ。

 しかも魔法があって魔族がいるらしい。

 現代日本人と何とか王国人の意識の落差が大きすぎて切り替えがうまくいってないんだろうな。

「それだけではございません」

 黒岩くんが沈痛な表情で声を落とした。

「先ほども申し上げましたが、例えば私は□△×●王国相談役であって、如月高校の生徒であるという感覚が希薄でございます。

 矢代大地殿にご説明させて頂くために日本語を話す事すら、多少の努力が必要なほどで」

「翻訳しながらお話しているようなものです」

 高巣さんが言った。

 英会話の実習みたいなものか。

 僕もそうだけど英語があまり得意じゃない人は会話するのにまず日本語で文章を考えてから頭の中で英訳して話している。

 高巣さんたちにとっての日本語ってそういうものになっているのかも。

(それは大変だな。

 少なくとも俺は会話するのに不自由してない)

 いや無聊椰東湖(オッサン)の話し方はちょっと高校生にしてはアレだから。

「というわけなのです。

 どうか、ご助力いえご指導しただけないでしょうか」

 高巣さんが僕の手を握りしめてきた。

 積極的だな。

 王国王女の(スキル)か。

(そうなのか)

 同級生の女の子に手を握られるというラノベ的なイベントなのに無聊椰東湖(オッサン)の冷静な思考が邪魔をする。

 僕はさりげなく手を解いて言った。

「判った。

 できる限り協力するよ」

 だってそうしないと何されるか判らないし(泣)。

 相手は厨二病の集団なんだよ。

 多勢に無勢だ。

 しかも同級生(クラスメイト)丸ごと。

 王国王女(高巣さん)に絶対の忠誠を誓いつつ団結している。

(そんなのを敵に回したら俺なんか一発だろう。

 だからここはとりあえず切り抜けて)

「ありがとうございます!

 それでは早速なのですが!」

 高巣さんがずいっと迫ってきた。

 こんなラノベは嫌だ(泣)。

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