68.スパルタらしい
午後の時間は淡々と過ぎた。
僕と高巣さんも慣れてきて問題集を二人で解き合ったりしていたら、手持ち無沙汰になったのか黒岩くんや神籬さんが周りの人たちのフォローに回っていた。
やっぱ鏡や琴根を含む護衛連中はあまり勉強が得意ではないようだ。
みんな運動部だし。
相談役や女官自らのご指導ということで堅くなりつつも真剣に勉強している。
授業中もこれだけ真面目にやったら学年順位は急上昇するだろうに。
日が傾いてきた頃に本日の勉強会は終わりということで帰り支度をしていると、黒岩くんがふと思いついたように言った。
「皆、少し真剣さが足りないようでございます。
前期末テストでは我が2年1組は全員、学年百位以内を義務としましょう」
黒岩くんの宣言にそこにいた人たちの半分くらいが真っ青になった。
それ結構きついのでは。
如月高校は県下一の進学校ではないにしてもそれなりの有名高だし各学年も定員一杯だから生徒数は千人近い。
つまり一学年には三百人くらいいるわけで、学年百位以内なら上位3分の1に入らなきゃならないことになる。
僕は中間テストで何とか2桁順位だったから大丈夫だろうけど、鏡や琴根は厳しいかも。
「「「……頑張ります!」」」
でも封建制度の平民は貴族? にそう宣言されてしまったらもうどうしようもないよね。
悲壮な顔つきでノートなどを片付ける同級生たち。
スマホを弄っている人も何人かいるけどあれはこの場にいない王国臣民に連絡しているんだろうな。
哀れな。
ふと見ると高巣さんが青い顔をしていた。
そういえば高巣さんの成績は中の上だったっけ。
ボーダーラインすれすれかも。
「……黒岩。
それはわたくしもですか?」
「当然でございます。
常に臣民の手本になる事が王族の義務でございましょう」
冷静に切り返す黒岩くん。
やっぱ黒岩くんってドSなんじゃあ。
この分だと僕もヤバいかも。
百位切ったら何かペナルティがありそう。
真面目にやろう。
そう決心して帰途につく僕なのであった。
今日も両親は帰ってこないので夕食はインスタントラーメンで済ませた。
冷凍野菜やハムの切れっ端なんかを入れると結構豪華な夕食になるんだよね。
もちろんこんなものを続けて食っていたらヤバいけどたまには。
食事の後、早速明日の昼食のための弁当作りにとりかかる。
ふと思いついてスーパーでカレー用の豚肉を買ってきたんだよ。
カレーを作るわけじゃなくて、このカレー用の肉って単体で見たらかなり大きな肉の塊だ。
これを塩胡椒で味付けして炒めると、一見高級そうなおかずが出来上がる。
もちろんこんなものは皿に載せたら単なる焼肉なんだけど、弁当箱に詰めるとあら不思議。
何となく豪華に見える。
後はグリーンピースやトウモロコシ、にんじんやゴボウなどの冷凍野菜を茹でた後、軽くフライパンで炒めれば副総菜の完成だ。
荒っぽいけど西部劇に出てきそうな弁当のおかずになる。
(矢代大地のこういった技能は何なんだ?
俺は料理なんか出来やしなかったぞ?)
無聊椰東湖が怠けていたからその反動じゃないのかな。
ろくなもの食べてなかったみたいだし。
そのせいで若死にしたとか。
(俺にその記憶がないのにか?)
よく判らないから無視。
ご飯はタイマーで明日の朝に炊きあがるようにセットしてから僕は休んだ。
ちなみにおかずはテーブルに載せておくと夜中に戻って来た親に食われてしまう恐れがあるから「食うな!」と書いたメモをつけた上で厳重に包んで冷蔵庫にしまっておく。
米も食われないように、テーブルの上にはおつまみを載せておいた。
翌朝キッチンに行ってみたらテーブルの上が綺麗になっていたけど米もおかずも無事だった。
まあ、米が炊きあがるのは親の会社の出勤時刻後なんだけどね。
両親は夜中に戻って来て朝早く出ていったらしい。
朝ご飯はコンビニで済ませているそうだ。
何でそんなに忙しいんだろう。
僕は将来、絶対に企画とかコンサルタントとかにはならないぞ。
(何やっても同じだろう。
厳しいのは一緒だ)
嫌な記憶を見せないでよ無聊椰東湖!
ご飯を保温機能があるタッパーに詰め込んで、おかずの方は電子レンジで暖めて一緒に入れる。
焼肉は冷えても美味いし、お昼ならまだちょっとは暖かいだろうからこれで良し。
勉強道具と弁当を詰めたナップザックを背負って家を出る。
2年1組には既にかなりの人が集まっていた。
みんな熱心だなあ。
「お早うございます」
「お早う」
高巣さんや黒岩くんに挨拶して自分の席につく。
すると美人が僕の前に立った。
「おはようございます!
ダイチ様」
「あ、お早う。
比和さん」
メイドの人も来たのか。
気になったので聞いてみた。
「今日はバイトないの?」
「シフトを外して貰いました!
私も一緒に勉強させて頂きます!」
(昨日の格闘士の宣言のせいだな。
この美人メイドさんはあまり成績が良くないんだろう?)
失礼なことを言わないでよ無聊椰東湖。
比和さんの成績は良いとは言えないけど悪くもないよ。
確か中の中というか普通だったと思う。
(つまり頑張らないと上位百人には入れないわけか)
そうか。
大変だなあ。
「そんなに簡単にバイト休めるの?」
何でもブラックバイトとかあるらしいし。
清掃事業なんかモロに肉体労働だからヤバいのでは。
「人数が増えたので、休みを取りやすくなっています。
他校の人たちもいますので。
もっとも一度に全部抜けると会社が困りますから私達もローテーションで調整してますけれど」
事も無げに言う比和さん。
何かもうバイトというよりは店長くさくなってない?
使役する側に回ったような。
(やはりただ者じゃなかったな。
こういうタイプはどんどん出世するぞ。
矢代大地なんぞ足元にも近寄れなくなる)
そうなの。
別にいいけど。
その時黒岩くんが手を叩いた。
「ほぼ集まったようですな。
それでは補習を開始させて頂きます」
もう黒岩くんって先生とは言わないまでも教育実習の人にしか思えなくなってしまった。
ガタイも凄いし、顔付きなんかどう見ても社会人だ。
それも管理職クラス。
同級生たちは「はっ」とか「了解しました!」とか返事をしながらそれぞれの席についた。
席がほとんど埋まってしまっている!
もう夏休みじゃないなあ。
やっぱ先生いらなくない?
授業、じゃなくてご指導は昨日と同じだった。
相変わらず僕と高巣さんが問題を解いて黒岩くんが採点する。
正解でも間違いでも解説してくれるんだけど、今日はそこになぜか比和さんが加わっていた。
「比和も人を率いる立場でございますので。
是非とも良い成績を取る必要があると直訴されました」
黒岩くんの了解をとったらしい。
そばにいる宮砂さんが何か不機嫌だったけど、僕としては助かった。
高巣さんの様子がおかしいんだよ。
一応問題を解いているものの、始終俯いたままだ。
「何かあったの?」
「何でもない……ありません!」
何かあるよね?




